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広報・調査部

労働力支援対策室インタビュー 働く人目線で農業労働力支援

自立支援、社会貢献で地域振興

 コロナ禍で農業労働力支援の取り組みが注目されています。足りない労働力を確保するという農業者側の目線から、社会的に困窮する人々を助ける受け皿としての取り組み意義が再評価されているからです。労働力支援の取り組みを支える耕種総合対策部労働力支援対策室に話を聞きました。


 全農では、今年4月に専任部署として労働力支援対策室を設置しました。これまで以上に農業労働力の支援に取り組んでいきます。

働く人目線で始めた労働力支援で集まった人たちが、キャベツの収穫作業を担う
 
人が集まり出した 働く人目線での募集

 農家目線では、不足している労働力を必要な時期に、必要な人数を集めてくれたらいいということになってしまうのですが、それだけでは逆に人が集まりません。農家目線の労働力支援から、働く人目線に少し変えてみたら、人が集まり出しました。

 厚生労働省も注目しているのが大分県のケースです。大分県本部は平成26年から、㈱菜果野(なかや)アグリをパートナー企業として取り組みを始めました。農作業受託、いわゆる請負作業です。同社がアルバイトを雇用し、働く人を送迎し農家へ送り出す。賃金は日払いです。作業は同社が最初から手取り足取りで教えます。農家は募集、面接、雇用契約、作業を教える、指示することなどから解放されます。

 作業のメインは労働集約型で、野菜や果樹に関しては、機械化になじまない収穫・出荷調製など手作業の部分です。菜果野アグリは、働く人がちょっと働いてみて、自分には合わないな、体力的にも合わないし、あまり面白くないなと思ったら辞めてもらってもいいですよというふうにしています。まずは来ていただいて、1回働いてもらう。続くようであれば、週1回でもいいし、2回でもいいという、緩やかなルールにしています。そうすると、働く人の都合に合わせられますし、人も入れ替わりながらでも農作業受託は続いていきます。応募してくる人には、長い間働いていない引きこもりの方もいますし、就職氷河期で就職できず日数が経っているとか、今回のコロナ禍で職を失った方もいます。今まで募集の対象になっていなかった人が集まり出しました。

 最初の働くきっかけ、途中、休んでいた方の中間就労、これをきっかけに農業でそのまま働いていただいてもいいし、異業種に移ってもらうステップアップのきっかけになってもいいし、そこはこだわらないので、どんどん利用していただいたらというぐらいの気持ちで、この方法を取り入れています。

地域内で協力し合い 共に発展する社会へ

 こうした取り組みは引きこもりなど、これまで社会と関わりが薄かった人たちの自立支援ともいえますし、社会貢献として農業がそのきっかけの一つになればと思います。全農は地域振興を掲げています。ベースは農業振興ですが、農業にこだわらず、地域が潤うようなこと、働いて所得を得てもらう地域振興、それをさらに広げて、地方創生に貢献するという旗印を立てています。農業が国と国民のために今何ができるのか。農家目線ではなく、地域の中で農業がどうやって生き残っていくかと考えたとき、農業とは関係ないところとの協力が必要です。異業種の方が休業になったり、失業されたりしたときに、農業で一時的に働いてもらってもいいと思っています。逆に、農業が暇なときには、異業種の作業を手伝いに行く。それは他産業でも一緒だと思います。工業や観光業とかサービス業もそうですが、農業と一緒に発展していく、それに貢献できるようなことが今の全農の理想です。

 新型コロナウイルス感染症の影響で現場の方から聞いているのは、菜果野アグリの募集に、空港で勤務している人や、観光業に従事している土産物屋さんとか旅館業の方が、急に増えてきたそうです。農業は一時的にそうした方の受け皿にもなれます。経済回復後も緩やかに農業に関わってくれる人たち、関係人口を増やしたいと思っています。

 2年、3年働く中で、農家に弟子入りして、新規就農できる人を育てていければと考えています。菜果野アグリの中でも、1人、2人とそういう方が出てきているようです。1000人に1人か2人でもいいので、最終的には新しい就農者、仲間を増やせるということを期待しています。

 他の県でも大分方式を広めるには、菜果野アグリ的なパートナー企業をどうやって開拓するかが課題です。今模索している最中ですが、各県でパートナー企業と連携しているのが13県になります。菜果野アグリは、福岡と佐賀にも営業所を作って、九州ブロックでもう少し広げようとしていますが、あまり遠いところには行けません。現地で探すか、もしくはわれわれの方で問い合わせがあったり、希望する企業があればそこを紹介して、やりませんかということで動き出しているところです。

ブロック協議会設立で 広域展開へ

 その方策の一つとして全農は、各地域に労働力支援のブロック協議会を立ち上げようとしています。今、九州ブロック労働力支援協議会と、中国四国ブロック労働力支援協議会があります。その中で、大分モデルのパートナー企業の開拓を広めていこうとしています。

 また労働力支援のノウハウを提供し、ブロック協議会のメンバーの中で広げていこうと考えています。JA単独ではできないことをいかにサポートできるかです。

 大分は少量多品種で、いろいろな作物があります。ただシーズンでいうと夏秋作なので、冬、春があまりありません。仕事がないと菜果野アグリは人のつなぎとめができません。解決策として例えば、冬・春のキャベツを新しく作付け、県内で作業を平準化しようとしています。ただ、それだけではまだ不十分ですので、ブロックで対応すれば、冬・春の作物を作っているところもあるので、九州北部の中で人の融通をつけられないか。ブロック内であれば高速道路で1時間か1時間半走れば、カバーできます。ブロックで取り組む方が人の調整がつけやすいので、協力し合える機運が高まってきました。

 協議会には全農、県経済連、県JA、県中央会、パートナー企業も正規メンバーで入っていただいています。オブザーバーに全中、県庁、農水省(地方農政局)、内閣府 内閣官房などに加わっていただいて、いろいろな制度資金の相談などにもワンストップで対応できるように活動しています。

 今後も、労働力支援対策室ではパートナー企業との連携を進めるとともに、農福連携など、多様な農業労働力支援にも取り組んでいきます。

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