守るべきものに対する「意気」と恐れず立ち向かう「覇気」で取り組む
「一人は万人のために、万人は一人のために」。これは古くからある言葉で、協同組合運動ではライファイゼンが使用したのが由来と言われています。この言葉は、私の心に刻んできた言葉であり、私の行動の源になっているものです。
いま温暖化による度重なる自然災害の発生により、農業の持つ多面的な機能価値が見直されています。また新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、「国家安全保障を含めた食料自給率の向上」は喫緊の課題となっています。私は、これまで全農が果たしてきた機能・役割をさらに加速し、組織・事業・経営の革新をはかり、国内農業の発展に尽くす覚悟です。
日本の農業は、昔から培われてきた農畜産物がベースとなり、各地に根付く郷土料理や食文化と併せて祭りをはじめ伝統文化が形成されています。それが「日本・日本人のアイデンティティ」の原点であり、JAをはじめ各協同組合の事業活動により未来へ受け継ぐ財産として守られています。先進農業の取り組みと併せ、このアイデンティティを守ることはJAの役割と考えています。
私は副会長として3年間、「農林水産業・地域の活力創造プラン」を着実に実践し、さらに自己改革を加速化して「生産基盤の確立」、「食のトップブランドとしての地位の確立」、「元気な地域社会づくりへの支援」、「海外戦略の構築」、「JAへの支援強化」に取り組んできました。しかしながら、マイナス金利の長期化や貿易の自由化進展、新型コロナウイルスの影響は計り知れないものがあり、対策が急がれます。この難局を乗り切るため、私は副会長の経験を生かし、組合員、消費者、国民のために貢献できる全農へと舵(かじ)をとってまいります。
具体的には次の5点に特に力を入れて取り組んでまいります。
第1には、「組合員・地域JAにとってなくてはならない全農」になるということ。いま日本の農業は急激な構造変化を迎えています。組合員の高齢化が著しく進み、耕作放棄地の拡大に歯止めがかからない状態です。一方、スマート農業の開発が目覚ましく、生産性の向上や規模拡大が可能となり大規模経営体も増加しています。当然、組合員・地域JAから求められるものも変わってきており、スピード感も増しています。その声に耳を傾け、課題を吸い上げ、対応を図っていくことが重要です。全農は自らも変化を恐れず、変わり続けることで、なくてはならない全農であり続けていくと考えます。
第2には、「夢が持てる農業、次代にバトンが渡せる農業への転換」であること。私の出身JAでは、園芸作物の新規就農者育成を手掛けており、卒業して柑橘(かんきつ)や野菜を栽培する新規就農者が地域を活性化する原動力となっています。また柑橘でブランド化された「紅まどんな」や「せとか」の誕生により、若い後継者が意欲をもって挑戦する姿が珍しくありません。こうした産地づくりを全国津々浦々に広げ転換していくためには、全農が育んできた農畜産物の生産技術の普及促進や他企業とのアライアンス、また、海外もにらんだ新たなバリューチェーンの構築を急ぎ、地域特性を踏まえた生産振興に努めていきます。また行政や企業との連携を一層深め、地域振興の活性化を目指します。
第3には、「社会貢献活動や地域のニーズに応える」こと。JAグループ全国連8団体で設立した「AgVenture Lab」は、「農業」と「食」と「地域の暮らし」に関わりのある社会課題の解決策を研究しています。こうした活動を通じて、都市と地方を結びつける関係人口を増やすことが農業・JAの理解を深めることにつながっていくと考えています。また、全農はスポーツ支援を通じて「食」と「農」に対する感謝の学びを子どもたちに育み、地域社会の貢献を果たしており、これからも継続することでその役割を未来へつないでいくものと考えます。
第4には、「経営基盤の確立」を図ること。令和元年度事業は、統合全農となって初めて事業総利益が900億円を下回る決算となりました。全農は計画収益をしっかりと確保しJA組合員を支援すること、さらなる地域貢献をはかることが求められています。そのためには2年目となる中期3か年計画を完遂し、農家組合員の所得向上を背景とした構図を作り上げることが必須となります。情勢負けせず、確固たる方針と経営資源の最適化により5、10年後を見据えた経営基盤を強固なものにしていきます。
第5には、「未来を担う人材の育成と職場の環境づくり」を強化すること。組織は人が命です。全農グループのみならず、JA職員を含めしっかりとした人材育成の研修体系を構築していく必要があります。個性豊かな人材を育て、風通しの良い職場環境づくりを積極的に進めていきます。また、新規就農者の育成にもJAと一体となった取り組みを進めていきます。未来への投資を惜しまず、人材の育成に注力していきます。
私は、これまで農協運動を「意気」に感じ「覇気」をもって一生懸命の日々を積み上げてきました。これからもさらに、守るべきものに対する「意気」と恐れず立ち向かう「覇気」をもって取り組んでいくことを表明し、所信といたします。