【対談】京都大学iPS細胞研究所 山中伸弥所長×JA全農経営管理委員会 長澤豊会長
元気な社会、いのちを守る社会へ手を携えていきましょう
全農は10月28日、京都大学iPS細胞研究所との間で、iPS細胞技術の啓発と研究支援のための寄付促進を目的とする業務連携協定を締結しました。この連携に際し、同研究所所長の山中伸弥教授をお招きし、本連携の意義や農業が抱える問題などについて、全農の長澤豊経営管理委員会会長と話し合っていただきました。
iPS細胞技術の啓発と寄付促進に向け業務連携協定締結
長澤豊会長 本日はお忙しいところお時間をいただきありがとうございます。また、お会いすることができて光栄です。
山中伸弥所長 こちらこそありがとうございます。研究所の広報活動を全農さんがサポートしていただける協定を結ぶことができ、大変うれしく思います。「知らせる」活動の大切さ、大変さは身に染みて理解しているつもりです。
長澤会長 山中先生の研究も私たちJA全農の事業も「いのちを守る」という共通の理念があり、奥深いところでつながっていると思っています。先生はかつてお父さまを当時良い治療法の無かった病気で亡くされ、それが医学の研究を目指すきっかけとなったと伺いました。
山中所長 そうですね。亡くなってしばらくたってから特効薬が開発されたんです。医学の発展でそれまで救えなかったいのちが救えるようになるのは素晴らしいことですよね。その経験が今のiPS細胞の研究につながっていると思います。
長澤会長 私の先祖は百姓の長、いわゆる名主という地位で当時冷害に苦しむ農民たちのために領主に直訴し打ち首になりました。私の家の近くにはそのご先祖様を祀(まつ)る神社があり私の生きざまにも影響を与えています。
山中所長 当時の冷害・干ばつは「餓え死に」と背中合わせでした。今も大きな災害が人々のいのちや生活に与えるダメージは大きいですよね。同じく病気もまだまだ人類にとっての脅威です。
パーキンソン病に 卓球の運動療法が有効
長澤会長 全農では、卓球の日本代表オフィシャルスポンサーとして、アスリートの食を日本の食で支えています。先日、卓球がパーキンソン病という難病の運動療法として非常に有用であることを知り、驚きました。iPS細胞は、そのパーキンソン病の新しい治療法の開発にも使われていますよね。
山中所長 パーキンソン病は脳の異常のために、体の動きが鈍くなったり、手足の震えが現れる病気です。脳のドパミン神経細胞の減少によって起こることから、iPS細胞から作製したドパミン神経前駆細胞を移植する治療法を現在開発中です。全農さんが力を入れている卓球と、iPS細胞がともにパーキンソン病にアプローチしているという共通点があるんですね。
長澤会長 パーキンソン病だけではなく、高齢化も大きな問題です。農村地域は日本全体の平均よりも大きく高齢化が進んでいます。地方の重要な産業である農業も例外ではありません。農業従事者の高齢化に伴う認知症やアルツハイマーなどの病気の問題もますます深刻になっています。
研究の大きなテーマは 「健康寿命を延ばす」
山中所長 私たちの研究の大きなテーマは「健康寿命を延ばす」です。健康寿命と平均寿命にはまだ10年の差があります。「人生の終末をできるだけ長く健康に」、の実現は高齢化社会における医療の重要な役割です。加齢による細胞の劣化によって引き起こされるアルツハイマーなどの病気に対するiPS細胞を使った再生医療の研究も進んできています。
長澤会長 農業に定年はありませんから健康寿命を延ばすことは農業の人手不足緩和にも貢献できますね。地域の活性化や里山の自然を守るためにも地方が率先して活気ある高齢化社会をつくらないといけません。
山中所長 難病の治療法や特効薬の開発には長い年月とお金が必要です。開発初期のうちは国の資金を活用させていただきますが、国の資金は、競争的資金と呼ばれるもので、使途や期限が限られています。また、企業も実用化が見えてこないと研究に対する支援が難しいことから、途中で資金不足に陥り研究を断念せざるを得ないケースも少なくありません。iPS細胞研究のように20年、30年とかかる長期的な取り組みでは、一般の方々からのご寄付も活用させていただきながら、研究を維持していきたいと考えています。
長澤会長 協同組合も組合員一人ひとりの出資金で運営されています。だからすべての組合員が平等に協同組合を利用することができるのです。先生のお考えと私たちの理念には近いものを感じますね。
山中所長 元気な社会、いのちを守る社会をつくるためにこれからも手を携えていきましょう。
全農の研究所職員と意見交換
長澤会長との対談後、山中所長に、全農の研究所職員と意見交換の時間を取っていただきました。大学での研究と企業での研究の違いなどについて意見を交わし、なかでも、山中所長の「企業での研究は目的がはっきりしているが、研究においては想定していない結果が重要で、そこからブレイクスルー(進歩、前進)が生まれる。そのバランスが難しい」という話は示唆に富むものでした。
JAグループ役職員の皆さんもiPS細胞研究所への寄付をお願いします
iPS細胞研究基金のWebサイトから、Yahoo!ネット募金、京都大学基金により寄付できます。
※寄付金は、税額控除の対象になります
iPS細胞研究基金サイトはこちら