畜産事業の研究最前線 8
畜産事業の研究所を紹介する当シリーズ最終回となる第8回は、ET研究所 研究開発室です。北海道上士幌町にあるET研究所では、優良な和牛受精卵の製造・供給や和牛受精卵を妊娠したET妊娠牛の供給、和牛精液の供給などを行っています。ET研究所は、受精卵の品質向上や生産性向上について研究する研究部門と、製造や販売などを行う事業部門に分かれており、このうち研究を担っているのが研究開発室です。
ET研究所 研究開発室 ET技術を極め和牛生産の現場を支える
受精卵の生産性を上げ生産者のコスト削減に貢献
優れた能力を持つ雌牛に過剰排卵処置を施し、そこに優良な雄牛の凍結精液を人工授精します。その後受精卵を採卵し、良質の受精卵だけを選別したうえで、他の雌牛に移植する事をET(Embryo Transfer=受精卵移植)といいます。
雌牛に人工授精を行うという通常のやり方では、どんなに効率が良くても1年に1産ですが、採卵により良質な受精卵を一度に10個生産できれば、優秀な能力を引き継いだ子牛をそれだけたくさん生産する事ができます。
研究開発室の大きなテーマは、受精卵の生産性を上げる事です。採卵する雌牛の1回の排卵数や受精卵数を増やし、更に受精卵のうち移植が可能な正常卵の割合を増やせれば、そのぶん生産原価が下げられます。それは販売価格を抑える事につながり、生産者のコスト削減に貢献できます。
受胎率向上に向けた研究も
もう一つの課題は受胎率の向上です。近年、和牛生産者は激減しており、和牛の生産基盤が衰退しています。そこで増えているのが、和牛受精卵をホルスタインの雌牛に移植し、和牛を生産するという手法です。和牛子牛は交雑牛(F1)より高く販売できるため、酪農家の収益向上にもつながります。
しかし移植をした際の受胎率が低ければ、空胎日数が延び余分な飼料代がかかり、酪農家の場合では乳代が得られる時期も遅れます。このような課題を解決するため、研究開発室では受胎率向上に向けた研究にも取り組んでいます。 (シリーズおわり)