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広報・調査部

耕畜連携 広島県 小谷あゆみさんが事例報告

地域の課題を資源に変える「3-R」 耕畜産消 みんな地域の仲間

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 広島県本部が持続可能な農業と地域の環境保全を目指して立ちあげた耕畜連携・資源循環ブランド「3-R」(さん・あーる)。「3-R」とは、「耕畜連携」によりつくられた農畜産物や加工品のブランドで、三つのRは「資源(RESOURCE)」「再利用(RECYCLING)」「繰り返す(REPEAT)」を表しています。3-Rブランドには、野菜、米、肉、卵やその加工品などが認定されています。その中でも、地域の暮らしを守るために始まった「広島こめたまご」発祥の地、広島県世羅町を小谷あゆみさんが訪ねました。


こめたまごで地域の水田を守る

 広島県のほぼ中央部、標高350~450mの世羅台地に位置する世羅町。高原の気候から果樹栽培が盛んで6次産業化の進んでいる地域ですが、水田地帯は、減反政策により、耕作放棄地が増え続けていました。
 「このままいくと、中山間の特に山の際にある土地は、間違いなく荒れてくるじゃろうと。なんとか水田は水田のままで使えんじゃろうかという発想から始めたのが飼料用米だった」と語るのは、養鶏場を営む松本義治さん。
 約53万羽の鶏を飼養する「広島たまご(株)」の社長です。まだ補助金もない2008(平成20)年ごろ、水田を維持するために、仲間に呼びかけて、飼料用米の生産に乗り出したのです。

広島たまごの松本社長(世羅町)
 
水田×養鶏 双方の課題をプラスに

 この取り組みをさらに拡大したのが広島県本部です。広島たまごでは、08年から配合飼料への飼料用米の混合を開始し、10年にはこめたまごを商品化。23年では県全体で約2000tに生産が拡大しています。
 広島県の採卵鶏の飼養羽数は全国5位。年間約40万tの鶏ふんが発生しています。鶏ふん堆肥を施用して飼料用米を生産し、資源を循環させる「耕畜連携」は、環境、経済、地域を守る施策でもあったのです。広島県本部では、22年から広島大学と共同で、主食用米の水田にも鶏ふん堆肥を利用する研究をしています。  
 北広島町の農事組合法人上川東では、水田20haのうち5haで飼料用米を生産しています。代表の鉄穴口隆弘さんによると、10a当たりの鶏ふん堆肥は800kgと、手間はかかりますが肥料コストは大幅に低減でき、飼料用米の作付けを年々増やしています。

耕畜のマッチングは組織改革から

 3-Rブランドとして、生産から販売まで一貫して進めるには、生産者と消費者の両方の理解が必要です。
 鶏ふん堆肥では確かにコストは削減されますが、例えると「化学肥料だと40kgで済むものが、鶏ふん堆肥だと200kgまかなければいけない」そうです。散布にかける手間が5倍になることを考えると、はじめは農家にも抵抗感がありました。
 そこで、広島県本部の改革推進部改革推進課の狩谷伸午課長は、組織内の「連携」に取り組みました。
 「これまでは米穀の部門と鶏卵の部門が、部門ごとに縦割りで業務を行っていましたが、飼料用米を作るよう生産者に提案してもらうために、米穀部門にも協力を仰ぎました。そのための『橋渡し役』を当課で担うことにしたのです」

広島県本部 改革推進部 改革推進課 狩谷伸午課長
 
消費者との交流で3‒Rの価値を伝える  

 同時に狩谷課長たちが取り組んだのは、消費者への理解と啓発です。
 「地元産の連携に『価値』を感じてもらうことから始まりました。耕畜連携とか循環型の農業で生産された卵や野菜、お米が価値にならないかなと。それをブランド化しようということで、お米(おーまい)ポーク、こめたまご、循環野菜などを3-R商品として認定しました。生協や直売所での販売に加えて、田植え体験会、稲刈り体験会、キュウリの苗植え体験会なども開催しています」  
 「広島の生協には40万人の組合員がいます。生協が主催する『産直こめたまご学習会』に出向いて、耕畜連携の意義を伝え、理解を広げています」
 松本社長は学習会や体験会を通して、「この卵を買うことで農地を守っているんだという意識を持っていただけるようになりました。買っていただける人がおらんかったら、成り立たんわけですから理解は重要」と話します。
 東広島市にあるコープ東広島店には、売り場の中央に「3-R」の特設コーナーがあります。資源循環型農業で生産される野菜や米、卵を目当てに来る消費者もいて、「3-R」のファンは定着しつつあります。

コープ東広島店の3-Rコーナーと小谷さん
3-Rの循環の輪と楽しさがあふれる手描きのポップ
広島県本部の直売所「とれたて元気市」(東広島市)

 
課題×課題を資源に。 地域の魅力を未来に伝えるために  

 広島県本部が、「3-R」を立ち上げた背景としては、大きく三つの課題がありました。(1)耕作放棄地の増加(2)肥料原料や飼料を輸入に依存する脆弱(ぜいじゃく)さ(3)畜産堆肥の活用策――です。
 経済優先できたこれまでは、これらを別々の課題とみなしてきましたが、広島県本部では、3-Rの連携を通して、耕種農家も畜産農家も消費者も、みんな同じ広島に住む仲間として「包摂(ほうせつ)」し、地域の魅力を未来に伝えるコミュニティーを築いているように思えます。地元資源を介して仲間を増やすことは、「誰も取り残さない」サステナブルな笑顔の輪です。

背が高く、株も太い飼料用米の田んぼで農事組合法人上川東代表の鉄穴口隆弘さんと小谷さん(北広島町)

 
今回の取材の様子をまとめた動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=wEHITpTJpa0
 

農ジャーナリスト・
フリーアナウンサー
小谷あゆみさん

 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。都市でも農に親しむ市民、消費者が増えれば、農業・農村への理解が深まり、価値向上につながると考え、取材、執筆、メディアやSNSなどでも活動を行う。また、農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

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