特集

特集
広報・調査部

スマート農業 広島県 小谷あゆみさんが報告

水管理の時間が5分の1に! 自動給水機アクアポート スマート農業で地域を守る北広島町千代田地域

 広島県の北西部、島根県との県境に位置する北広島町は、中国山地を貫流する江の川上流の山間にあり、古くから五穀豊穣を願う「芸北神楽(げいほくかぐら)」が盛んです。農村文化とともにコミュニティーが維持されてきた一方で高齢化が進み、町では20年ほど前から集落営農を進めてきました。そのうち千代田地域には17の農事組合法人があり、管理する圃場(ほじょう)は3000以上にのぼります。地域一体となって農業を守ろうと、生産者とJAがタッグを組んで進めるスマート農業の取り組みを紹介します。


水管理の負担を減らさないと営農が続けられない

 スマート農業をリードするのは、「農事組合法人ファーム八重145」です。2019年に設立し、「コシヒカリ」や、県の奨励品種「あきろまん」などの水稲を主体に、麦、園芸作物を組み合わせた経営を行っています。 ファーム八重145代表理事の中森司さんにお話を伺うと、
 「ここは水の少ない地域ですから、水管理は特に大変で、毎日巡回作業に何時間もかかっていました。車道から離れている水路だと、あぜ道を歩いて確認しなければならず、高齢の生産者にとっては大きな課題でした」
 「農地の集積が進む中、限られた人数で管理するには」――中森さんたちの長年の悩みに希望の光を照らしたのが、水田用自動給水機「アクアポート」です。

 アクアポートは、水管理に必要な機能に特化したシンプルな設計で、本体を水路の入り口に取り付け、水位を感知するセンサーが付いたスティックを田んぼに差すだけで設置が完了します。水位の上限と下限に二つのセンサーを設定しておくだけで、水を感知し、自動で水門を開閉して給水、止水する仕組みです。水位が最大に到達した時は、水門がゆっくり閉じて水路を遮断し、設定下限値より水位が下がると、今度は水門を開いて水を取り込んでくれます。
 稼働する様子を見せてもらうと、本体に人が一切手を触れずに、自動で水門が開き、みるみるうちに田んぼへ水が入っていきます。単1電池4個で1年間使用できるところも、「手頃で手軽、水田管理の強い味方」の商品コンセプト通りです。

水管理の作業負担軽減に貢献するアクアポート
機能も設計もシンプルで使いやすい

 
JAとの信頼関係から スマート農業導入に

 アクアポートをすすめたのが、JAひろしま千代田アグリセンター・センター長の田坂真吾さんです。ファーム八重145代表の中森さんとは子どもの頃からの顔なじみで、何でも話し合える間柄です。
 ふるさとの未来への希望や課題も共有する同志として手を組み、2021年に中森さんの圃場で2基のアクアポートを試験導入しました。1シーズン試してみると、いつ見に行っても適正な水位が保たれ、1基で約0.9haが管理できることを実証できました。
 その後も、集落のみなさんと協議しながら導入台数を増やしていきました。

 

(左から)ファーム八重145の副代表理事の西原さん、代表の中森さん、小谷さん
 
JAひろしま千代田アグリセンター・田坂センター長
 
少しでも長く 一人でも多く 営農を続けるために

 ファーム八重145における、アクアポート導入のメリットをまとめると、(1)水管理の時間が5分の1に短縮(2)水量が減った際の上流部と下流部の不公平感の解消(3)設置・メンテナンスが楽で取り組みやすい(4)従来と比較して、巡回頻度の減少によるガソリン代の削減(5)田んぼの水が枯れないため雑草が減ったなどの意外な効果もあるそうです。
 アクアポートの活躍により、ファーム八重145の副代表理事の西原敏幸さんは、空いた時間でトマト生産にも力を入れるようになりました。
 また、水管理の負担を理由にやめようとしていた高齢の生産者も、もう少し続けられると言ってくれたそうです。集落みんなで守る地域農業、一人でも多く、少しでも長く、仲間がいることが、やる気やモチベーションにつながります。
 こうした評判が、他の集落にも広がって、千代田地域一帯のアクアポート導入台数は300を超え、自治体としては全国一を誇ります。

Z-GISで飼料用米の 所得が4割アップ

 JAひろしまの協力のもと17の集落営農で千代田地域法人協議会を設立し、全農の営農管理システム「Z-GIS」による圃場管理も始まりました。さらに、飼料用米を対象にしたドローン※センシング(※センサーなどを用いて定量的な情報を取得する技術)では、生育ムラや葉色などを解析し、圃場ごとに追肥の提案をしています。データに基づく追肥を行ったところ、23年の飼料用米平均収量は10a当たり695kgと、過去最高となり、生産者の平均収入は導入前と比べて、10a当たり3万8000円以上向上、4割アップとなりました。
 ドローンのオペレーターも担うJAひろしま千代田支店営農指導担当の益田悠太さんは、「私もこの地域の出身で田んぼの風景を見て育ちました。時代に即した技術を取り入れて地域の農業を継続していきたい」と語ります。

Z-GISの管理画面
JAひろしまの益田さん

 
全日本お米グランプリで 銀賞に!

 町では「全日本お米グランプリin 北広島町」を2022年から開催しています。第1回大会では日本全国から集まった300点を超える応募のうち、ファーム八重145が「あきろまん」で銀賞に輝きました。代表の中森さんは、これを千代田ブランド「ちよだろまん」として、広めようと意気込みます。
 スマート農業で地域とJAが一体となり、みんなの笑顔から生まれる「ちよだろまん」、食べる私たちも笑顔になりそうです。

ファーム八重145の「あきろまん」
 
 
 
今回の取材の様子をまとめた動画はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=h9GjIjo8Lzc
 

農ジャーナリスト・
フリーアナウンサー
小谷あゆみさん

 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。都市でも農に親しむ市民、消費者が増えれば、農業・農村への理解が深まり、価値向上につながると考え、取材、執筆、メディアやSNSなどでも活動を行う。また、農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

カテゴリー最新記事

ページトップへ