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広報・調査部

スマート農業 熊本県 小谷あゆみさんが事例報告

「ザルビオフィールドマネージャー」 天草の早期米地帯で栽培管理に能力発揮

 全農では、スマート農業の一つである栽培管理システム「ザルビオ(R)フィールドマネージャー」(以下ザルビオ)の普及推進に取り組んでいます。今回は先進的に取り組んでいる熊本県天草市の農事組合法人「宮地岳営農組合」について、農ジャーナリストの小谷あゆみさんに取材報告をしていただきます。


ザルビオを仲間に笑顔を呼ぶかかしの里 天草の中山間地「宮地岳営農組合」を訪ねてみた

 熊本県の西に浮かぶ天草諸島。100を超える島々の中でも一番大きい下島のほぼ中央に、天草市宮地岳町があります。山に囲まれた農村地帯で、温暖な気候を生かした早期米の産地として知られています。農事組合法人「宮地岳営農組合」が、最先端のスマート農業「ザルビオ」で効果を上げていると聞いて現地を訪ねてきました。

熊本県初の営農組合から20年

 宮地岳営農組合は、地域の高齢化と後継者不足が進む中、地元有志が集まって結成し、2006年に法人化しました。10地区ある宮地岳一帯18heをまとめて生産性を上げ、産地としての生き残りをかけたのです。

 米を中心に、大豆、ソバ、ナタネなどの生産・加工も行い、地元の道の駅「宮地岳かかしの里」などにも出荷しています。

 組合メンバーも高齢化する中、地域の未来に向けて伴走するJA本渡五和の勧めもあり、スマート化に舵(かじ)を切りました。

 導入したのは、エクセルの情報を地図に落とし込む全農の営農管理システム「Z-GIS」と、人工知能(AI)と衛星画像による栽培管理システム「ザルビオ」です。

道の駅「宮地岳かかしの里」のかかし

 

平均年齢60歳、AIが圃場のリスクを教えてくれる

 事務所を訪ねると、3人の組合メンバーがパソコンやスマートフォンを見ながら打ち合わせをしています。

 代表の山﨑三代喜さん(63)、作業主任の渕上真彰さん(63)、松崎正和さん (57)です。

 皆さんが見ている画面が、ザルビオによる「生育マップ」です。Z-GISの圃場(ほじょう)データをザルビオに連携させ、圃場ごとの稲の様子を見える化。180筆の作業や生育段階が一目瞭然です。

 画面をのぞくと、一つの圃場に赤い「病害アラート」が出ています。クリックすると、「穂いもち病」と「紋枯病」のリスクが高く、薬剤散布が必要だという警告サインです。

 早速、薬剤を搭載したドローンを軽トラックに載せて、圃場へ。従来の農薬散布と比較して、アラートの出た圃場だけを防除すればよいので、数十分程度で完了します。

ザルビオの画面を確認
農薬散布用のドローン

地力が分かれば資材コストも削減

 もうひとつの強い味方が「地力マップ」です。地力ムラというのはどうしても出てくるものですが、これを色の濃淡で表し、「可変施肥」を提案してくれるのです。

 田植え前の土づくりの段階で、圃場の中の地力のバラつきをAIが教えてくれるため、肥料のまき過ぎを防止し、資材コストの削減につながるだけでなく、環境にも優しく、地力の均一化が図れます。

 「地力マップ」の活用で、反収(10a収)が10~20%増加し、格付けも2等米から1等米になりました。

スマホ画面上のザルビオの「地力マップ」
 
JAと農家が協力、地域全体で効率アップ

  JA本渡五和の営農部TACの山下清弥さんにザルビオ導入を提案した経緯を伺いました。

 「宮地岳は、中山間地で小さな田んぼが点在していて、見回りにも時間がかかり、施肥や防除が追いつかずに品質がばらつき、収入も不安定でした。今後、気候変動の激化でさらに病害の発生が深刻になり、高齢化によるさらなる農地集積も予想される中、効率化と品質向上を図るためには、スマート化が必要だと考えました」 そこで、スマホでも操作がしやすく、導入コストの負担が少ないザルビオの導入を持ちかけたそうです。

 状況を良く知る山下さんのアドバイスとあって組合の皆さんも同意し、21年から実証を開始、22年から本格導入しました。

JA本渡五和の山下さん
ザルビオの試験区

ザルビオの予測機能にびっくり

 早期米の田植えは4月初旬。従来はJAの防除暦に従い、6月後半から7月前半の出穂期に防除を行っていました。

 ですが、導入したその年、例年よりも2週間ほど早く、ザルビオがいもち病発生のアラートを示したのです。「本当かな」と思いながらもザルビオの指示通りに防除を完了させたその翌日に、県からいもち病の注意報が発令。無事に防除を終えていた宮地岳は、被害を免れました。

 こうした評判が広がり、現在ではJA管内7法人全てでザルビオを導入、県も導入を行いました。

 さらに、地元の若い農家夫婦が、ドローン防除事業の事務所を開設し、協力体制もできました。

 組合の皆さんに伺うと、「ザルビオはこれからの農家の良きパートナー。40年以上お米を作っていても、今の温暖化には太刀打ちできない。これからの農業はAIも使わんといかんばい」

 天草に浮かぶ島の中でも山間部にある宮地岳。昔から横のつながりが強く、地域みんなで協力して土地と暮らしを営んできました。これからは、フィールドマネージャーの名の通り、頼もしい仲間「ザルビオ」を迎え、農家とJA、道の駅や他産業、若い力も加わって、地域の農業から活気を取り戻そうとしています。

(左から)宮地岳営農組合の松崎さん、小谷さん、同組合の山﨑代表、渕上主任
 
今回の取材の様子をまとめた動画はこちら

https://youtu.be/zkCFM-wOYUo

 

農ジャーナリスト・
フリーアナウンサー
小谷あゆみさん

 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。都市でも農に親しむ市民、消費者が増えれば、農業・農村への理解が深まり、価値向上につながると考え、取材、執筆、メディアやSNSなどでも活動を行う。また、農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

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