【AgVenture Lab発 スタートアップ インタビュー】輝翠TECH(株)代表取締役 タミル・ブルームさん
農業用AIロボットを開発 人手不足の生産者を助けたい
JAアクセラレーター第5期に採択された輝翠(きすい)TECH(株)は宇宙探査技術を取り入れた農業用AI(人工知能)ロボットを開発するスタートアップです。代表取締役のタミル・ブルームさんに話を聞きました。
※JAアクセラレーターとは、JAグループの持つ幅広いネットワークとリソースを用いてスタートアップの事業成長を支援するプログラム
AIロボット「Adam」月面探査機の技術応用
──事業について教えてください。
日本の農業は、世界的にみても高品質な農産物を安定的に生産しているという特徴がありますが、その半面、一つ一つの農産物生産に多くの時間と労力をかけなければならないという課題を抱えています。そこで当社は、高品質な農産物生産を維持しながら、農業従事者の作業負担軽減を目指した農業用AIロボット「Adam(アダム)」や、農耕データプラットフォーム「Newton(ニュートン)」を開発しています。
──このような事業を立ち上げられたきっかけを教えてください
本事業を立ち上げたのは東北大学在学中に東北地方の農村地域の美しさを知ると同時に、その地域に暮らす生産者から人手不足などの深刻な問題を耳にしたことがきっかけです。
私は東北大学に進学するまでは米国で宇宙ロボットの研究をしていました。UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)でロボット制御を専攻し、修士号を取得後、ロケットの打ち上げなども行う航空宇宙メーカーSpaceX社でエンジニアとして働いたり、軍用ドローンの開発に携わったりするなどロボット開発の経験を積みました。
研究する中で、東北大学の吉田和哉教授の宇宙ロボット研究に関心を持ち、来日。その時に初めて日本の農業の現状に触れました。障害物の多い地形を安全に走行するために、AIなどの技術を月面探査機にどのように利用できるかについて研究し、博士号を取得する傍ら、自分の今まで学んできたロボット工学の技術を生かして人手不足に苦しむ生産者と地域を何とか手助けできないかと2021年に輝翠TECHを設立しました。
──農業用AIロボット「Adam」について教えてください。
「Adam」は、現在果樹農家の作業支援に特化しており、収穫場所から選別・出荷場所まで収穫した青果物を自動運搬するなどして、繊細な作業が必要とされる収穫・選別作業に人が集中できるような環境をサポートします。
「Adam」の強みは、月面探査ロボットの技術を応用することによって、凹凸や傾斜の多い農園でもスムーズに移動が可能な点です。また、「Adam」の機能には重い物を積んだ状態で生産者の後ろをついてくる追従モードや、農園内の二つのポイントを往復するA to Bモードなどもあります。
このような機能は実際に生産者の方にロボットを使用してもらい、フィードバックをもらうことで改善を重ねてきました。
中小規模生産者も対象にJAグループと連携強めて
──JAアクセラレーターに参画していかがでしたか。
実際にプログラムの期間中、リンゴ、梨、柿、ブドウなどの果樹を中心に10カ所以上の地域で実証試験を行い、1時間当たりの収穫量が20~30%増加したというデータも得ることができました。
──今後JAグループと取り組みたいことはありますか?
当社は、日本中の生産者をサポートできるようにすることを目標としています。さらに多くの生産者にサービス対象を広げるためには、その生産者からフィードバックをもらえる環境は必要不可欠であり、その生産者とのつながりはJAグループの協力なしでは難しいと考えています。今後もこのつながりを強め、生産者の求める機能を開発するとともに、当社の開発がJAグループに還元できるようなWin-Winな関係を築いていきたいです。
──今後の展望を教えてください。
現在は、一つのロボットで草刈りや農薬散布、収穫予測や防除対策のためのデータ収集など、農地でのさまざまな作業を可能にするためのアタッチメントを開発しています。今後は果樹だけでなく園芸品目などにも範囲を広げ、生産者の規模や作物、地域の違いがあっても共通して使用できるようなロボットを開発したいと考えています。
私は、現場で生産者の方と話し、当社のロボットによって恩恵を受けている姿を見られることが一番の幸せです。当社のサービスによって一人でも多くの生産者と農村の経済状況を改善するために、素晴らしい仲間と支援者とともに研究・開発を続けていきます。
輝翠TECHのHPはこちら