【AgVenture Lab発 スタートアップ インタビュー】(株)ミライ菜園代表取締役 畠山友史さん
AI使って病害虫防除アプリ実証先の声聴き課題解決へ
JAアクセラレータープログラム第5期に採択された(株)ミライ菜園は愛知県で創業したスタートアップで、人工知能(AI)による病害虫発生予報で生産者の予防的防除を支援しています。代表取締役の畠山友史さんに話を聞きました。
※JAアクセラレータープログラムとは、JAグループの持つ幅広いネットワークを用いてスタートアップなどの事業成長を支援する取り組み
病害虫診断「SCIBAI」防除DXアプリ「MIRAI」
――事業について教えてください。
2019年の創業から病害虫AI診断サービスの開発に取り組んでおり、スマートフォンにアプリをインストールし写真を撮るだけで病害虫診断ができる「SCIBAI(サイバイ)」というアプリを主に家庭菜園向けに提供しています。
農業の現場でも作物の病害虫被害は収穫量の最大4割に達するといわれており、被害抑制には予防を基本とした適切な対処が欠かせません。しかし、気候変動の影響が強まる中、「今までにないタイミングで病害虫が発生する」「見たことのない病害虫が発生する」など、勘と経験では通用しないケースが増えています。そこで、ミライ菜園では既存の「SCIBAI」に加えて、23年からAIを用いた病害虫発生予報や病害虫発生マップを搭載した、防除DXアプリ「MIRAI(ミライ)」の開発・提供を行っています。
――「MIRAI」の 特徴を教えてください。
「MIRAI」は、病害虫の対処に欠かせない「今」と「未来」が分かるアプリです。まず「今」の発生状況が分かるマップでは、指導員や生産者が発見した病害虫を簡単に共有でき、地域の発生状況がリアルタイムに可視化されます。次に「未来」、病害虫予報AIが日々の病害虫の発生危険度を1週間後まで予報します。「例年ならまだ防除不要だが、アプリ上で今後の危険度が上昇傾向にあるから今週防除しておこう」など事前に防除指導・防除計画を修正し、異常気象に対処できます。予防的防除により収量増が見込めるだけでなく、農薬散布回数が減り、省力化できる点も生産者の大きなメリットになります。また、この病害虫予報AIは、当社が開発したもう一つのアプリ「SCIBAI」で収集された病害虫診断履歴を活用しており、その仕組みは特許を取得しています。
病害虫被害は世界共通技術をグローバル展開
――JAアクセラレータープログラムに参画していかがでしたか。
JAグループからの支援を受けたことにより、アプリの実証先開拓と各地域のJAへヒアリングする機会を得ました。JAや生産者の生の声を聴くことで、ビジネスモデルの明確化を行うことができました。
さらに同プログラムを通じて実証先が1JAから6JAまで増え、実証先からのフィードバックがアプリ改善に非常に役立っています。また、当初想定していませんでしたが、全農の群馬県本部をはじめとした都道府県段階組織との連携の可能性があることを発見することができ、大きな収穫となりました。実証に参加した若手生産者からは「アプリの予報に基づき予防的防除を行ったことで、病害虫被害が軽減できた」との声もあり、新規就農者や若手生産者にとって特に効果が見込めるサービスだと考えています。
――今後の展望を教えてください。
国内の生産者は生産資材の高騰、気候変動による異常気象などさまざまな課題を抱えています。その中で生産を継続するために、肥料や農薬など資材を投入して生産する農産物を、いかに品質を安定させロスしないか、といった生産効率の向上が求められているように感じます。
逆に言えば、そのような環境で磨かれた国内の栽培技術は世界的にみても高水準であることから、AIをはじめとした先進技術を組み合わせれば、技術を輸出し世界の農業生産にも貢献していけると考えています。
病害虫被害は世界共通の課題です。当社は国内の生産者・JAが抱える課題を解決しながら、同時にその技術をグローバル展開することで、世界の農業の生産性・持続可能性向上に貢献していきます。