特集

特集

労働力支援特集(兵庫) 人と人との交流が生む長期のファンづくり

「農作業お手伝い」が黒枝豆の危機を救う

 労働力支援特集として、今回は農ジャーナリストでフリーアナウンサーの小谷あゆみさんに兵庫県本部の労働力支援の取り組みについての取材報告をしていただきます。


小谷あゆみさんが事例報告

 今回、労働力支援の取材でお邪魔したのは、兵庫県丹波篠山市。特産の黒枝豆の出荷繁忙期に「農作業お手伝い」の募集をしているという話を聞きつけ、現地生産者の元へ伺いました。

 全農では、2022年に「全国労働力支援協議会」を設立し、労働力支援を通じた農業人口減少対策に取り組んでいますが、兵庫県本部ではその3年前の19年に「農業労働力支援室」という専門の部署を立ち上げ、労働力人材を補うマッチングを開始しています。

参加者が来てくれる日は朝起きるのが楽しみと語った辻さん(左)
小谷さん(右)と参加者4人で出荷作業をお手伝い

農作業のお手伝いSNSで募集

 丹波篠山特産の黒枝豆は生産者の高齢化や出荷作業の手間による生産者数・生産量の減少が続いています。そこで兵庫県本部は黒枝豆の生産者を対象に100件以上の実態調査を実施。作業効率からアルバイト雇用すると赤字になってしまうという産地の現状に合わせた支援策として「丹波篠山の黒枝豆のお手伝い募集」を実施しています。生産現場の課題を理解した上で「農作業のお手伝い」をしていただける方を募集するため、開催を出荷繁忙期である10月の平日に設定し、SNSで呼びかけました。キャッチコピーには、「短時間でも」「1人でも」「仲間とでも」「観光のついででも」といった気軽さと「お礼に新鮮な黒枝豆をプレゼント」という参加者へのメリットも盛り込み、あくまでも援農のルールは保ちつつ、参加のハードルは下げるという、バランスもポイントとなっています。

 取り組み当日、黒枝豆農家の辻良平さんの元へやって来たのは、車で1時間ほどの兵庫県宝塚市から来た女性4人のグループ。話を聞くと、「全農のSNSを見て来た」「黒枝豆が大好き」「農作業や田舎ぐらしに興味がある」という知的好奇心旺盛な働くママ世代。平日でしたが有給休暇を取って来たという意欲にも驚きました。

SNSを活用し参加者を募集

農家と参加者を取り持つ兵庫県本部の役割

 実際に農作業の手順を教えてくれるのは、兵庫県本部 農業労働力支援室の佐本亮太さん。佐本さんは支援室立ち上げ当初から、200件以上の農家にヒアリングを行い、現場の課題とニーズをもとに労働力支援のノウハウを蓄積してきた経験があります。

 黒枝豆は「枝付きの束1kg」で出荷するのが特徴で、葉っぱを落とす作業や枯れた枝、実の入っていないさやを取り除くのは全て手作業。時間がかかる上に、歩留まりは半分ほどになるとのこと。最後に束にする作業は、水分蒸発や誤差を考慮して1.1kgほどにする点がポイントです。こうした現場の工夫も参加者には、新たな発見となりました。参加者はプロセスを知ることで、黒枝豆への愛着がわき、農業への意識も変わります。

兵庫県本部労働力支援室の佐本さん
参加者に丁寧に作業を教える佐本さん(左)

 

農家、消費者、 地域の未来 Win-Win-Win!

 当日は午前と午後で合計7人が3時間ほど農作業のお手伝いをし、辻さん1人だと一日15束の出荷量が30束と倍になりました。作業の後にいただいたゆでたての黒枝豆は格別。豆の味が濃厚でミルキーで粒が大きく、こんなにおいしいエダマメは初めてでした。また、何より自分が関わったことで感じたのは「愛(いと)おしさ」です。「立派においしく育ってくれたな~」としみじみするのは、関わりから生まれる「当事者意識」です。体を動かし、収穫を喜び、みんなでシェアするおいしさには、感謝と感動が伴います。

 辻さんは、「いつもは1人で作業をしないといけないが、今日は皆さんが来てくれると思っただけで、朝起きるのがうれしかった」とのこと。それを聞いた参加者の女性は、「私たちが楽しみに来たつもりだったのに、そんなに喜んでくれるなんて。少しでもお役に立てたらこちらもうれしい」と涙ぐんでいました。

 「農家に寄り添った農作業支援」から始まった兵庫県本部の労働力支援は、単なる人数の補塡(ほてん)ではありません。人と人が出会えば、そこにはぬくもりが生まれます。農家と参加者の交流は、やがて地域の未来に、明るい変化をもたらすと確信しました。

ゆでたての黒枝豆は格別
お礼の黒枝豆を持ち笑顔の参加者と生産者の辻さん(中央)
黒枝豆は粒が大きい

 
今回の取材の様子をまとめた動画はこちら
 
ショート
https://youtu.be/Y-acHpzzHXA
 
本編
https://youtu.be/TTNHFkNxS9k
 

農ジャーナリスト・
フリーアナウンサー
小谷あゆみさん

 石川テレビ放送のアナウンサーを経て現在はフリー。野菜を作るアナウンサー「ベジアナ」として家庭菜園歴は25年。都市でも農に親しむ市民、消費者が増えれば、農業・農村への理解が深まり、価値向上につながると考え、取材、執筆、メディアやSNSなどでも活動を行う。また、農ジャーナリストとして、都市農村交流や、生産と消費のフェアな関係をテーマに全国で取材、講演、シンポジウムでの司会やコーディネーターなどを行う。日本農業新聞ほかでコラム連載中。農林水産省・世界農業遺産等専門家会議委員なども務める。

カテゴリー最新記事

ページトップへ