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広報・調査部

インタビューシリーズ“発信”する農業者 第4回 山倉 慎二さん(Ricepect Project代表 新潟市 水稲・イチゴ農家)

尊敬されるべき農業者のために 農作業は“嫌い”でも自分が“好き”なことを通じて農業の尊さについて発信する

 インタビュー企画「“発信”する農業者」の第4回は、インタビュアーのファームサイド(株)の佐川友彦さんが、実家で農業に従事しながらも、日本の農業の魅力を伝えるためにRicepect Projectを立ち上げ、米国でも活動する新潟県の山倉慎二さんにお話を伺います。


「なりたい自分」を想像し「何者かになる」ために動く

佐川友彦さん Ricepect Projectをはじめ、“発信”に興味を持たれたのはいつからですか?

山倉慎二さん 子供の頃から「自分を表現したい」という気持ちは強くて、絵を描いたり歌を歌ったり、とにかく目立つことが好きでした。大人になって実家に就農した後も「自己表現」したい気持ちは強く、昼は農業・夜はダンスと忙しい日々を過ごしていました。

お米の魅力を伝えるRicepect Projectを発足
 

佐川さん 「自己表現」が主だったところから、「農業について」も“発信”していこうとなったのは何かきっかけがあったのですか?

山倉さん 正直20代後半までは「農業で何かしなくては」という意識は高くありませんでした。ただ、周りの同世代の農業者も本格的に実家の農業を継いでいく姿をみて「自分も社会の中で“何者か”」にならなくてはと思い、家族の勧めで参加したSNSマーケティング講座をきっかけに各種SNSでの発信やダンスイベントで実家のイチゴを販売するなどの活動を始めました。

佐川さん 「なりたい自分」や「何者かになる」というのは若い世代の農業者にも必要な意識なのかもしれませんね。今やさまざまな人生の選択肢がある中で、農業の道を選んだのであれば「自分の農業とは何か」を考えることは非常に大事なことですね。

山倉さん 本当にそう思います。私は30歳で県が主催する農業経営塾に参加し、事業計画や今後のビジョンについて具体化する機会がありました。そこで「農業に、エンターテインメントを」という思いを確立し、自分の農業に筋を通せるようになりました。この経験があったからこそ、農業に対するモチベーションに根拠や深みが出たと感じています。

佐川さん 若手でうまくいっている農業者は「自己表現」をうまく取り入れて、ファンや仲間を集めている印象があります。JAや行政なども今後は、「自己表現」に取り組む農業者の思いをくむ意識があると、より効果的にサポートできるのではないでしょうか。

SNSや音楽などさまざまな手法で農業についての発信を行っている
 
企業理念「農業にエンターテインメントを」の起源

佐川さん 具体的にどういったことを意識して“発信”をされてきましたか?

山倉さん まず人々が生きていく上で欠かせない食べ物を作っている農業者が尊重されていない現状を変えていきたいという思いが全ての原点でした。尊重されるためには、「まず知ってもらう」、「知ってもらうためには興味を持ってもらう」必要があるというところから、多くの人が関心のある“何か”を通じて農業をもっと知ってもらおうと考え、企業理念の「農業にエンターテインメントを」をモットーにさまざまな活動を行ってきました。

佐川さん 米国で日本の米の魅力を“発信”されるためにパフォーマンスをされていましたが、現地の反応はどうでしたか?

山倉さん 言葉もうまく通じない環境でもどかしい経験もしましたが、現地でパフォーマンスをする中で日本の米を食べて「おいしい」と言ってくれる人と触れ合えたことがとてもうれしかったです。

佐川さん 失敗や悔しい思いなど全ての経験をご自身の糧にされているからこそ、常にパワーアップされているのですね。

ダンスイベントなどでもイチゴを販売
 
「“発信する”=インフルエンサーになる」ではない

佐川さん 山倉さんから“発信”に関心のある農業者の方へ伝えたいことはありますか?

山倉さん まずは「“発信”は無理してやる必要はない」ということを伝えたいです。その上で伝えたいことや理念などは先に発信した方がいいと思います。ただ、フォロワーを増やしてインフルエンサーのようになる必要はないと思っています。

佐川さん 有名になること、フォロワーを増やすことが目的になってしまうと本来伝えたかったことがぼやけてしまいがちです。小さくても関係性の濃いコミュニティーの方が、本当に伝えたいことを一人一人にしっかりと伝えられますよね。

山倉さん 私も、フォロワーはイベントなどで顔見知りのお客さんがほとんどです。

佐川さん それは心強いコミュニティーですね。最後に山倉さんのこれからの目標を教えてください。

山倉さん 昔からラジオパーソナリティーになるのが夢で、そういった自分のやりたいことを通じて多くの人に「農業・農業者の尊さ」を伝えていきたいです。子供たちに知ってもらうためにも、実は今、絵本を制作中です。

佐川さん 山倉さんの新しい挑戦がとても楽しみです。今回、山倉さんの行動力やマインドの原点について聞かせていただきましたが、時間が足りないくらいでした。これからも世界へ飛び出した“発信”を楽しみにしています。

栽培するイチゴ「越後姫」はこだわりの土耕栽培
 
インタビュアー 佐川 友彦 さん
 東京大学農学部、同大学院修士卒。外資系企業を経て2014年から阿部梨園に参画。代表阿部氏の右腕業を務め、その改善ノウハウを「阿部梨園の知恵袋」としてオンラインで無料公開している。現在はファームサイド株式会社を起業し、講演活動や経営支援で各地を回り、農家の経営改善運動を全国へ展開中。著書『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』(ダイヤモンド社)


山倉 慎二(やまくら しんじ)さん
 「農業にエンターテインメントを」を理念に掲げながら、音楽、イラスト、ポッドキャストなどさまざまなエンターテインメントを農業と掛け合わせ、新しい農業の価値を探求するちょっぴり破天荒な新潟の米とイチゴを生産する農家。
 2021年には、厳しい状況にある米農家ひいては農業者が「リスペクトされる環境を取り戻す」ためRicepect Projectを発足。「日本人の米に対するリスペクト」を取り戻す方法として、世界に日本米の魅力を伝えることが重要と考え、22、23年には米国の路上や市場、学校などで日本米の魅力を発信するパフォーマンスを行った。

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