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広報・調査部

インタビューシリーズ“発信”する農業者 第1回 鶴竣之祐さん (「ノウカノタネ」配信 福岡市 野菜・果樹農家)

農業界“発信”のパイオニアが語る 変わっていく“発信”と “発信”で守りたいもの

 TwitterやYouTubeなどSNSが発達し、誰もが気軽に“発信”できる時代となりました。農業界では国産農畜産物の「安心」「安全」「付加価値」などを伝え、食や農への理解を深めてもらうことが重要なテーマとなっています。こうした動きを広げるために、先進的に消費者への“発信”に取り組む農業者に、きっかけや取り組みの工夫、手応え、今後について聴くインタビュー企画を始めます。インタビュアーにファームサイド株式会社の佐川友彦さんを迎え、第1回は福岡市の鶴 竣之祐さんにお話を伺います。


農業者も少しずつ“発信”をするようになった
好評のポッドキャスト「ノウカノタネ」

佐川友彦さん 「“発信”する農業者」企画の第1回ということで、今回は“発信”する農業者のパイオニア的存在の鶴さんにお話を聞きたいと思います。早速ですが、これまでの「農業者の情報発信」の流れはどのようにみておられますか?

鶴竣之祐さん 私はPodcastを約10年前から始めましたが、当時はまだまだ“発信”する農業者は少なかったです。そこからFacebookが一気に普及し、農業者も少しずつ“発信”をするようになっていった印象ですね。SNSが急速に拡大する中で4、5年前からTwitter、Instagram、 2、3年前からPodcastにも農業者の仲間が増えてきました。

 また、長く情報発信を行う中で、情報発信の手法にも大きく分けて「交流系」「コンテンツ系」の2種類があると感じています。交流系はFacebookをはじめとする情報発信手法で、個々が意見を言い合いながら地域関係なくみんなで村を作り上げるような感覚が強く、今まで地域を超えた交流が難しい環境であった農業者にとっては新鮮な情報交流の場でした。

 コンテンツ系はPodcast、YouTubeなどに代表される、編集技術などによってうまく世界観を作り上げながら、コンテンツを分かりやすく視聴者に向けて発信をすることに重点を置くもので、近年は交流系からより気軽な情報発信をする農業者が増えてきたと感じています。

佐川さん 農業者の情報発信にも変化が生じているということですね。“発信”の内容でいうと現在鶴さんが運営されている「ノウカノタネ」では「農業を民主化する」「すべての人が農業にアクセスできる世界に」という考えを発信されていますが、そのように考えるようになったきっかけは何ですか?

鶴さん ある時農家同士で今後の農業について議論する中で、農業機械技術や作業効率が上がれば上がるほど農家(特に専業)は減っていくのではないか?という話になり、「違う形の農業」を模索するようになりました。その中でロシアのダーチャ(農園付き別荘)というものにたどり着いて、ダーチャのように農家・非農家関係なく、みんなが簡単に農業へアクセスし、小規模でも農業ができるようにすることで自分の理想である「故郷を守りたい」という思いが達成できるのではないかと考えたことがきっかけですね。

佐川さん すてきな考えですね。私も農業現場で働きながら情報の非対称性を強く感じていたので、誰でも気軽に農業にアクセスできるようになることは、ビジネス的には不利だと言われがちな地方や小規模農家も生き生きと農業に取り組める環境づくりの第一歩になるかもしれないですね。

 

“発信”とは“みんなに 分かってもらうこと”ではない

佐川さん 鶴さんが考える“発信”する上で大事なことって何ですか?

鶴さん やっぱり交流系では、話をまとめる力がある農業者がフォロワーも多いと感じます。特にフォロワーが多い農業者は消費者に向けた発信が多く、伝えたいことの中にうまくそれぞれの個性を織り交ぜて発信をしているという印象です。

佐川さん 確かに、広くたくさんの人に知ってほしいという目的を意識しすぎると、本当に伝えたいことが何なのか本質を見失ってしまう可能性がありますよね。素直に自分の本音を飾らない言葉で伝え、うまく自己開示していく方が結果的にファンが増えるのかもしれないですね。

SNSで積極的に発信する鶴さん
 
“発信”を例えるなら… 作物の“蒸散”?

佐川さん 最後に鶴さんが“発信”をする中で得たものって何ですか?

鶴さん そうですね。やはり農業に全く関わっていない方とのつながりができ、情報交換ができるようになったことですかね。“発信”によって自分の想像していなかったところで自分の言葉が響き、種がまかれ、それが新しいつながりになることを知ることができました。

佐川さん 情報発信力を多くの農業者の方が身に着けていくことで、農業に関してより質の高い情報を集積・拡散できる可能性がありますね。

鶴さん はい。今後は農業者の仕事の一つとして“発信”が重要になってくると思います。

佐川さん “発信”して他者から反応を得ることで初めてPDCAサイクルが回るのかもしれませんね。

鶴さん そう思います。私も“発信”することでリアクションをもらえて、次のインプットができていると感じます。植物に例えると蒸散量(発信)が多いと水の吸収(新しい情報)も多くなり、併せて光合成もできているような感覚です。(笑)

佐川さん すてきな例えですね。“発信”ツールが充実してきた今、農業界全体がもっと“発信”していくことが大事ですね。今日はありがとうございました。

 

インタビュアー 佐川 友彦 さん
 東京大学農学部、同大学院修士卒。外資系企業を経て2014年から阿部梨園に参画。代表阿部氏の右腕業を務め、その改善ノウハウを「阿部梨園の知恵袋」としてオンラインで無料公開している。現在はファームサイド株式会社を起業し、講演活動や経営支援で各地を回り、農家の経営改善運動を全国へ展開中。著書『東大卒、農家の右腕になる。小さな経営改善ノウハウ100』(ダイヤモンド社)


鶴 竣之祐 さん
 大学卒業後、兼業農家の後継ぎだが親元ではなく独立就農し、福岡市内で農業を始める。地元若手農業者で2014年農業Podcast「ノウカノタネ」配信開始。20年YouTubeチャンネル「科学的に楽しく自給自足ch」配信開始。22年より農メディア事業、営農事業、AI開発事業を統合して法人化。
2021年Apple editor’s choice (Apple社)
2021年Spotify NEXT クリエーター賞 (Spotify社) 受賞
2022年第51回日本農業賞 食の架け橋の部(NHK、JA全中)奨励賞受賞


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