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広報・調査部

「食と農を 未来へつなぐ」(1)全農事業担当理事インタビュー 神林幸宏常務理事(園芸・フードマーケット事業担当)

 令和4年度の取り組みと5年度に向けての戦略について、園芸・フードマーケット事業を担当する神林幸宏常務理事に聞きました。


――令和4年度はどのような年でしたか。

 令和4年度は気象変動などによる世界的な食料生産の不安定化や食料需要の拡大、これに加えて、ウクライナ情勢の緊迫化、急激な円安などが拍車をかけ、国産青果物をはじめ食料の安定的な確保が課題となりました。

 園芸事業ではまだまだ業務用需要は回復しておらず、その影響で特に重量野菜を中心に価格が低迷するなど厳しい状況が続きました。一方、生産資材の高騰を受け、生産者の経営は苦しい状況にあり、生産コストを反映した適正な価格形成が求められた一年でした。

 フードマーケット事業では、飲食店舗事業は最悪の状況から脱して令和元年のコロナ前の売り上げまで何とか回復してきたと思います。店舗数は減りましたが、飲食店舗事業全体の収支はかなり改善しています。JAタウンの方は順調に数字を伸ばしてきているところですね。

――4年度の主な取り組みについて、まずは園芸事業から教えてください。

PFCや冷凍青果物工場など新たな青果物流通構築を検討

神林幸宏常務理事

 昨年6月から他企業と連携し、長野に産地貯蔵保管施設であるPFC(プラットフォームセンター)を設置して、青果物を産地側で鮮度を保った状態で貯蔵・保管しながら、定時・定量・定価・定質で実需者に販売していけないか、販売実証に取り組んでいます。青果物は鮮度が命、収穫したらすぐに出荷し販売することが常ですが、天候の影響などで出荷数量や価格が安定しない場合がある。そこで、優れた冷蔵技術を利用して保管することで短期ではありますが需給調整し安定的に供給できないかと考え、この取り組みを始めました。実証の結果、品目によっては2週間程度、鮮度を保持できることが分かりました。今後、さらなる検証や販売先との協議を重ね、将来的には全国複数箇所での設置を目指したいと考えています。

 もう一つは、冷凍青果物事業への進出の検討です。消費の環境が大きく変わり、冷凍青果物の需要も非常に増えていますが、国産冷凍野菜の冷凍食品市場に占める金額は全体の5%程度と、外国産が主流となっている実態があります。国産へのニーズに対応するため、冷凍青果物を製造する施設を整備し、全国のJAグループが保有する冷凍青果物工場と連携することで、産地冷凍による高品質な国産冷凍青果物を安定的に供給する体制を構築すべく検討しています。

省力技術など果樹生産を振興

 これまで野菜については、コンビニ向けの加工用ブロッコリーや国産でリレーする「ほめられカボチャ」など生産振興に取り組んできました。果樹についても、生産力の低下や苗木を植えてから実がなるまで時間がかかり未収益期間があるなどの課題に対応するため、省力生産できるような技術の普及を目指し、リンゴやスモモなどの品目で、青森や長野、福岡での実証を3年度より進めました。このことにより、果樹生産の維持、さらには新規の生産者を呼び込むことができるのではないかと考えています。

資材高騰で適正価格の形成へ 関係団体へ働きかけ、消費拡大

 昨年7月、全中とともに卸売市場の業界団体に対して、営農が継続できる適正な価格形成と国産青果物の消費拡大について要請しました。また、全農が直接販売している実需者に対しては、県本部が中心となり、具体的な数字を示して生産者の状況を訴え、生産資材コスト高騰を反映した販売価格での取引をお願いし、要望を受けていただいた例もありました。また、消費拡大については料理インフルエンサーやSNS(交流サイト)を活用した情報発信、マルシェへの出店など物販イベントの開催や量販店店舗で活用可能な販促資材の作成などに取り組みました。

乗富幸雄副会長が全国中央市場青果卸売協会の川田一光会長を訪問

――フードマーケット事業では?

JAタウンの認知度拡大で成果

 JAタウンは今年で23年目を迎えますが、同業他社の通販サイトと比較して認知度が低いという課題がありました。そこで、関西限定でのテレビCMを昨年3月に初めて放送し、「JAグループ直営国産農畜産物の販売サイト」としての認知拡大を図りました。また、昨年10月に全中が実施した「国消国産の日1000万人キャンペーン」に合わせJAタウンで送料無料キャンペーンを展開したこともあり、会員数は70万人を超え販売金額も前年対比120%と大きく伸長しました。

新たな購買層の獲得を多彩に

 さらにJAタウンの購買層を広げるため、Twitterでの投稿やキャンペーンを継続的に展開しました。タレントを起用しYouTubeで商品を紹介したり、YouTuberによる料理紹介を行ったりするなど、若年層をターゲットにした会員の確保にも積極的に取り組みました。また、JAタウンの出店者(ショップ)とは情報の共有を積極的に行い、JAグループらしい品ぞろえの拡充や目を引く商品販売ページ作成のアドバイスなどショップフォロー体制を強化したことも売り上げの伸長につながったと考えます。

ネットとリアルの融合で消費喚起

 もともとフードマーケット事業部は消費者に直接対応する事業を強化することを目的に立ち上がりました。それが飲食店舗事業とeコマース事業であり、リアル店舗とeコマースというバーチャル店舗の連携が大きな課題でもありました。JAタウンの会員数は70万人ですが、飲食店舗は年間200万人ほどの方に利用いただいています。そこで飲食店舗のメニューやPOP、チラシなどにJAタウンの二次元コードを掲示することで、飲食店舗で食べていただいた食材を自宅でも購入できるよう、きっかけづくりに取り組みました。また、飲食店舗が運営するSNSを活用し、飲食店舗のTwitterをフォローしてもらうとJAタウンで扱う商品がプレゼントされるといったキャンペーを展開するなど、両事業の連携を強化しました。

飲食店舗の復活へ運営委託も

 店舗数はコロナ前の58店から45店に減りましたが、駅ビルを中心にいい立地を見つけ、長崎や熊本、京都、直近では名古屋で新店をオープンしました。売り上げはほぼコロナ前の規模に戻り、損益も大幅に改善したということで、やはり立地を見極めることと、運営を飲食パートナー企業に委託し、しっかりタッグを組みながら経営を改善してきた結果が、ここにきて出てきたと感じています。

 また、牛乳の消費を拡大するために酪農部と連携して飲食店舗で牛乳のキャンペーンを実施するなど、飲食店舗やJAタウンを効果的に活用した他部門との取り組みも展開しました。

令和4年11月にJR名古屋駅直上JRセントラルタワーズ内にオープンした「みのるダイニング名古屋店」

 

 

 

 

 

――5年度の戦略について教えてください。

卸売・小売・流通・メーカーと連携 多様なチャネルで情報発信を強化

 引き続き、生産コストを反映した再生産可能な販売価格の実現を目指していくとともに、私たちJAグループが、卸売事業者・小売事業者の皆さまなど流通段階と連携して、国産青果物の消費拡大の取り組みを広げていきたいと考えています。併せて大手食品メーカーの皆さまと協力しメニュー提案するなど、消費喚起にも取り組みます。

 また、冷凍青果物事業については、JAグループとして新たなニーズに対応していくため、冷凍青果物工場の設置を見据え、取引先への需要動向の調査や原料専用産地の開発を進めるとともに、事業の採算性などについても引き続き検証していきます。

 そしてフードマーケット事業については、これまで取り組んできたことをさらに強化しなければいけないと考えています。ショップからはテレビCMを放送したことでJAタウンの認知が高まり、訪問者が増えたという声もいただいています。今後も、多様なチャネルでの情報発信により認知度拡大を図るとともに、リアル店舗とeコマース事業の連携を強化していきます。飲食店事業では、「国産農畜産物の消費者への提供・PR拠点」として、新品種やブランド農畜産物などJAグループの特徴ある食材を生かしたフェアなどを積極的に展開し、生産者と日本農業の大切さ・食文化などの情報発信を強化していきたいと考えています。

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