With/Afterコロナ時代の食と農
コロナ禍は食農業界にも大きな影響を与えました。今後の農産物流通はどのように変化するか? 識者・関係者に聞きます。
流通現場から見る今後の農畜産物流通
全農チーフオフィサー 戸井 和久 氏
②見るべきものは生活者のライフスタイル[全3回]
コロナで変化しない変化から戦略を立てる
今回のコロナ禍による変化に伴い、多くの方の関心はアフターコロナがどのようになっていくかという事だと思います。それについての予測はあらゆるところでされていますが、答えは誰も分かりません。ただ、注意すべきは、その前提となる世の中の構造変化の傾向はコロナ前もコロナ後も変わっていない点です。コロナで生活者のライフスタイルが激しく変化している一方、コロナとは関係なくゆっくり大きく変化し続けていることもあります。例えば「生産年齢人口の減少」「高齢化」「共働き率の増加」「少人数世帯の増加」などです。これらは統計としてもはっきり出ていますし、コロナで数字が急激に変わることはありません。すなわち、提案の仕方と販売の方法が変わるだけで、これらの事実に基づく傾向は大きく変わらないと見ることができます。逆説的ですが、このような大きな変化を押さえながら、より細かな生活者のライフスタイルの変化に対応していく事が最善だと思います。
今後も重要なキーワード
大きな変化について具体的に言うと、「ネット」「惣菜(そうざい)化」「健康」「安全性」「ストーリー」などは今後も重要なキーワードでしょう。ラストワンマイル、ゼロマイル(When,Where)を考えると「ネット」が外せないのは前回述べた通りです。また、少人数世帯や共働き世帯の増加から、加工された状態で欲しい(How)というニーズで「惣菜化」も今以上に商品開発が進むでしょう。何(What)を食べるかで言えば、高齢化はもちろんですが、若い世代においても「健康」「安全性」に関する食品は関心が高いのです。セルフメディケーションとしてキムチや納豆、ヨーグルトなどの発酵食品が売れているのは最たる例でしょう。そして最後の選択の基準になるのはなぜ(Why)ですが、それに応える「ストーリー」が今以上に求められていくのではないでしょうか。宅配でも生協が伸びているのには理由があると思いますし、食品ロスへの関心の高まりなど持続可能な生産・消費などの新たな価値観で動く消費者も増えています。これらをターゲット(Who)に合わせて最適な形で提供することが今後も重要でしょう。
最終的に見るものは「生活者のライフスタイル」
ただ、どんな時でも消費の変化を捉えるに当たって最終的に見るものは「生活者のライフスタイル」です。POS(小売りの販売データ)や官公庁のデータはじめ、あらゆる数値データは生活者のライフスタイルを裏付ける情報となります。ただ、今回の変化について、統計データはまだ数えるほどしか出ていませんし、消費者の選択がラストワンマイルまたはゼロマイル内で行われる場合は、そのデータは既存の小売りPOSにもありません。なのでこれからは生活者により近いデータを探っていく必要がありますが、まだ各家庭の冷蔵庫の在庫管理を誰もデータ化できていないのと同様、それらの多くは数値化、あるいは可視化されていないものです。これからはその生活者のライフスタイルを分析する力が競争力になっていくと考えられます。