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広報・調査部

緊急連載 反グローバリズム・反新自由主義の潮流(1)

みつはし・たかあき 1969年熊本県生まれ。東京都立大学(現:首都大学東京)経済学部卒業。外資系IT企業ノーテルをはじめNEC、日本IBMなどを経て2008年に中小企業診断士として独立。著書に『本当はヤバイ!韓国経済』『亡国の農協改革』など。

農業とナショナリズム

横軸・縦軸のナショナリズム

 日本は、世界屈指の自然災害大国である。さらには、戦争と無関係でいられるかどうか、誰にも保証することはできない。非常事態が発生した際に、国民同士が助け合う心意気、すなわち「ナショナリズム(国民意識)」なしで、われわれはこの災害列島で生き延びることは不可能である。

 ナショナリズムには、横軸のナショナリズムと、縦軸のナショナリズムがある。横軸のナショナリズムとは、現在に生きる国民同士による助け合いだ。縦軸のナショナリズムは、「将来の日本国民」のために努力し、投資を積み重ね、先人から受けた恩を将来世代に返すことだ。

 縦軸のナショナリズムを忘れると「今だけ」、横軸のナショナリズムを忘れると「自分だけ」、両軸のナショナリズムを失った人間は価値尺度をカネに収斂(しゅうれん)させ「金だけ」になる。東京大学の鈴木宣弘教授が言う「今だけ、金だけ、自分だけ」は、縦軸、横軸のナショナリズム双方を失った現在の日本国民の考え方を表現している。

食料安全保障とナショナリズム

 人間は食料を獲得しない限り、生き延びることはできない。縦軸のナショナリズムに従い、将来世代にわたる食料安全保障を構築することは、今を生きる全ての国民に課せられた責任である。

 食料安全保障のためには費用がかかる。カネのことだけ考えれば、外国の農産物を安く「輸入」すれば、国民の胃袋は短期的には満たされるのかもしれない。しかし、未来においても外国が日本に農産物を輸出してくれるか否かは誰にも分からない。

 大変残念なことに、戦後の日本は食料に関する外国依存を強め、特に穀物自給率は28%という悲惨な状況になっている。それにもかかわらず、日本政府は、最後の砦たるコメについても市場開放に動いている。

 さらに問題なのは、カネ目当ての各種の「改革」により、日本の食料安全保障維持の「仕組み」を破壊しようとしていることだ。

 農協法の改正で、全農は、株式会社に組織変更できる規定が置かれた。協同組合は買収不可能だが、株式会社は可能である。株式会社となった場合、カーギルなどグローバルな穀物メジャーに買収されるかもしれない。

 そして、アメリカの農業ビジネスの都合で種子法は廃止され、その上、輸入食品に関する安全基準は次々に緩和されている。

 わが国は「カネ」が理由で、現在の国民はもちろん、将来世代に対してまでも、「安全で十分な食料を、継続的に供給する」ことが不可能にありつつあるのだ。

 このままわれわれが両軸のナショナリズムを取り戻すことなく、食料安全保障の再構築に真剣に乗り出さなかった場合、現在もしくは将来の国民が「餓死の時代」に放り込まれることになるだろう。 【要約】

本稿は雑誌『表現者 クライテリオン』(啓文社書房)の連載「農は国の本なり」の第4回記事(2019年1月号)を、著者・出版社の承諾を得て要約・掲載させていただいたものです。

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