対談

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【新春対談】生産者を全力応援! スポーツキャスター 松岡 修造さん×全農経営管理委員会 折原 敬一会長

安全安心な食を提供し、命のバトンをつなぐ

今の時代に問われる「結」の心の姿勢

折原敬一会長 あけましておめでとうございます。

松岡修造さん あけましておめでとうございます。

折原会長 いつも「くいしん坊!万才」を拝見しております。爽やかに取材されていて、バイタリティーもあり、見ていて元気と勇気をもらえます。

松岡さん ありがとうございます。番組は25年間も出演させていただいており、もうすぐ47全ての都道府県を最低2回以上訪問する予定で、日本2周を達成します。「プロフェッショナルテニスプレーヤー」歴よりも「プロフェッショナルイーター」歴の方が長いんです。食についてはかなり興味がありますので、今日はよろしくお願いします。

折原会長 お手柔らかにお願いします。

松岡さん 折原会長は会長就任からこれまでどのようなことを心がけてこられたのでしょうか。

折原会長 私は現場の職員と同じ目線を持って、状況をきちんと理解することが大事だと思っています。また、われわれJAグループは、生産者の営農と生活を守り高め、豊かな社会を築くことを目的とした組織であることを役員はじめ、職員全員が理解し、共有していくことも大事だと思っています。

松岡さん そのためには、何がポイントでしょうか。

折原会長 スピード感が求められる時代です。例えばトップがいなくても中間層が決断しなければならないタイミングがあります。現場からはそうした声を常に発信してもらい、効率的な事業運営を進めるための仕組みづくりをしていくことが重要です。

松岡さん 会長を含め全農が考えていることが上から下までしっかり浸透して、また一人一人が決断したり判断したりできる、そういう力をもった組織に変えていくということですね。

折原会長 役員をはじめ、多くの職員が改善を重ねて得られる結果だと思っています。

松岡さん 全農のホームページを拝見すると、海外も含めてさまざまな事業展開をされていますね。すべてを一つにまとめていくために、何を大事にされてきたのでしょうか。

折原会長 やはり人とのつながり、接点、絆といったことは、これからも大事にしていきたいです。JAグループ内だけでなく、グループ外の企業とも業務提携をしていくことで、お互いの良い部分を融合し、安全・安心な食品を消費者の皆さんに提供するスタイルに変わってきています。加えて、われわれJAグループの原点は、生産者が築き上げてきた組織であるということも忘れてはなりません。

松岡さん 信頼というつながりを得て、全農は本当の意味で、生産者さんを応援し、支えていくポジションにあるんですね。

折原会長 食は命を預かる産業ですから、消費者への食材の安定供給と、生産者が安定した収入を得て生活ができる環境を整えていく、このどちらも両立することが重要だと思っています。肥料や畜産の飼料などの生産資材を含め、国内ですべて賄うことができればベストですが、不足する部分は海外からの輸入を含め、安定して生産者に供給できるように対策しています。

松岡さん そのためにも、自分たちが日本のものをしっかり安全においしく正しく食べていくことが大事だと思っています。それが、生産者を応援することにつながるんだと。生産者さんとお話すると、「自分が作ったものは安全であり、体に良いものなんだ」と皆さん情熱を持って話してくださいます。僕は多くの人にこの思いを伝えていきたいと思います。

折原会長 ありがとうございます。ただ、ここ何年かは気温の上昇や雨による水害も多くなってきています。自然災害が起これば、生産者が努力を続けてきた一年を棒に振ることにもなりかねません。自然災害による損害を免れない中で、生産者が安全・安心な農畜産物を提供する努力を続けていることを、ぜひ消費者の皆さんにも理解していただきたいです。

松岡さん 確かに生産者さんは気候、円安、コロナ禍と、これまでずっと耐えしのいできたという印象が強いですね。そんな中で、年配の生産者の方からは、「結(ゆい)」の心を聞くことがとても多いのです。それはまさに相互扶助であり、自然との共生、人と人との繋(つな)がりだと思います。

折原会長 「結」をよくご存じですね。

松岡さん お米の産地に伺うと、よく「結」について教わりますからね。生きるとは、助け合うことなのだと学びました。

最新の技術や販売方法で生産者に安定した収入を

松岡さん 最近は多少値が張っても国産の食材を購入する人が増えているように思います。たとえば、店頭でも生産者さんの顔写真がついているものが増えてきましたね。

折原会長 はい。安全・安心を担保しながら、生産に励んでいる人たちの顔が見える販売方法を定着させることも新たなPR方法の一つです。ほかにも「同じ品目でも、他の産地とはこの部分が違いますよ」という特徴を〝見える化〟することで、生産に見合った収入を、農家が得られる仕組みにしたいと考えています。

松岡さん そういう意味では、スマート農業の推進も喫緊の課題ですよね。以前、国を挙げてスマート農業に取り組んでいるオランダの農業について取材をしたのですが、現地の方が言っていたのは「日本の技術はすごいし、生産者の農業にかける情熱も素晴らしい。だからこそ、日本ももっとスマート農業を推進し、世界のトップを走るようになってほしい」と。折原会長はどうお考えですか?

折原会長 全農もスマート農業の普及拡大に注力していますが、技術革新は今後ますます大事な要素になってくると思います。私も4月に中東と欧州、オランダに赴き、施設を見学してきました。それぞれの国がおかれている状況や食料への位置づけの違いを把握し、国内の現状を精査しながら引き続き取り組んでいければと思っています。

「人」を「良」くするために「食」への意識を変えていく

松岡さん 僕は世界的に活躍できる日本人選手を育てたいと考えた時に、「結」の心に通ずるような、〝選手同士のつながり〟を大事にしてきました。僕は錦織圭選手のことを、彼が11歳の頃からみてきましたが、今では彼自身がジュニアの合宿に来てくれて、若い選手たちに自身の経験を伝え、アドバイスをくれるようになっています。選手同士のつながりを構築できたことは、僕が日本のテニス界において一番成果を出せたことだと自負しています。他の国にはない、その「結」の心が日本ならではのチーム力になっているんです。

折原会長 それは素晴らしいですね。私も役員や職員との接点をできるだけ多く作るようにしています。「会長は何を考えているのか分からない」と言われてしまえば事業は前進しません。常に現場感覚を持ちながら、積極的に交流の場を設けるなど、自分の考え方を周りに発信し、相互理解できるように心がけています。ところで、松岡さんは選手時代には食事をどのように捉えていたんですか。

松岡さん 僕は「eat to win」つまり、「食べて勝つ」という信念で、食べることも一つのスポーツだと捉えてきました。野菜を口に入れる時に、これは自分にとってどんな栄養になるのだろうと考えながら食べていましたし、海外遠征の時には必ず日本食のレストランを探して試合に備えていました。僕はお米で育ってきたという思いがあるので、日本食の力が僕には必要だと感じています。

折原会長 多くの日本の選手が、「お米がないと力を出せない」とおっしゃっていただけるのは本当にありがたいことです。

松岡さん お米はもちろんですが、野菜もとても重要です。僕は試合前に温野菜を食べていたんですが、味付けは塩味程度で最初は物足りなかったんです。でも野菜そのものの甘さを知り始めると、そこに興味がわいてきて、食べるのが楽しくてしょうがない。以前、子供たちと食育をテーマにした合宿をしたことがあるのですが、今の子供たちにとっては、食べる物はどこにでもあるのが当たり前。野菜は生きものではないという捉え方をしていた子も多かったんです。でも、その合宿の最後には、子供たちが野菜に向かって「ありがとう」と話しかけるようになり、生きているものをいただくことにありがたみを感じるようになっていました。「ああ、自分たちは食することで生きているんだ」と子供が改めて教えてくれましたね。食という字は人を良くすると書きますが、消費者の意識をそこに持っていくことができたら、食の捉え方も変わっていくのではないでしょうか。

折原会長 まったくその通りですね。今日は素晴らしいお話を聞かせていただきありがとうございます。

失敗を恐れずに「夢中」で農を応援

松岡さん さて、新年を迎えましたが、会長の今年の抱負をお聞かせください。

折原会長 異常気象や自然災害もなく、無事に収穫を迎えられる状況になればありがたいですね。個人的には今年72歳になります。東京と山形を行ったり来たりで体力的にはきついこともありますが、健康にも留意していきたいですね。

松岡さん 人生百年時代ですからね。会長が身をもって邁進(まいしん)されているのは素晴らしいことです。

折原会長 松岡さんはいつもパワフルに活動されていますが、今年はどんなことに挑戦されるおつもりですか。

松岡さん 僕は応援することが生きがいなのですが、今年は何事にも「夢中」でいたいと思っています。もちろん、夢を持つことも大事ですが、「夢中」でいれば、失敗しても、うまくいかないことがあっても前に突き進めるんです。昨年のパリオリンピックで、「夢中」でいられることがどれだけ大事なことなのかを実感しました。今年は「夢中」になって周りを応援することで、自分自身も進化していきたいと思っています。

折原会長 1回や2回の失敗なんてどうってことないですよね。職員も上に対してなかなか言いにくいこともあるかもしれませんが、失敗を恐れずに、どんどん進言する気持ちを大切にしてほしいです。

松岡さん おっしゃる通りですね。それはそうと、昨年は会長から大きな尾花沢スイカをお送りいただきありがとうございました。僕はスイカが大好きなんです!食べたときにジュワっと出てくる水分、これはスイカならではの魅力ですよね。自然な甘みがあり、土の香りを感じられるところも大好きで、皮全体が白っぽくなるまで食べます。

折原会長 尾花沢スイカはわれわれが自信を持っている山形のメジャーなスイカなんです。じゃあ、今年もぜひ食べてもらいましょう。

松岡さん ありがとうございます。野菜でも果物でも、この地方はこれがおいしいという食材があります。それは一つの代表選手ですし、その土地ごとの武器でもあります。どの地域にも誇れる食べ物がある日本は本当にすごいですね。

折原会長 日本の農畜産物は、安全・安心はもちろんですが、品質面も含めて、バランスよく、いろいろなものがあります。松岡さんには今年も日本の食をたくさんPRしていただけることを期待しています。

松岡さん はい、番組を通して生産者さんの思いをたくさんの人に届けていきたいですね。今日はありがとうございました。


まつおか・しゅうぞう 1967年東京都生まれ。10歳から本格的にテニスを始め、高校2年生の時に高校総体単・複・団体で三冠を達成。その後、単身渡米、86年にプロに転向。95年のウィンブルドン選手権で、日本人男子としては62年ぶりのベスト8進出。98年に現役を卒業し、現在はジュニアの強化・育成に尽力する他、オリンピックのメインキャスターを務めるなど、メディアでも幅広く活躍しています。

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