【新春対談】全農経営管理委員会 折原 敬一会長×全農所属 石川 佳純さん
チームワークで作る食の未来 ~安全・安心への使命~
日本の食の魅力を世界に発信
折原敬一会長 あけましておめでとうございます。
石川佳純さん あけましておめでとうございます。折原会長は昨年7月に会長に就任されましたが、昨年はどのような一年でしたか。
折原会長 改めて、国民の命を食料生産によって守っていくという、全農の使命の重要性を強く感じるようになりました。石川さんは昨年5月に卓球選手の現役引退を表明されて、生活環境に大きな変化があったことでしょう。テレビでもよく拝見しております。
石川さん ありがとうございます。今まで経験したことのないことに挑戦することができるので、新たな発見の毎日です。全農さんからは12年もの間、温かいサポートをいただいて、心から感謝しています。ずっと応援してくださったおかげで、思い切り卓球に力を注ぐことができました。
折原会長 海外遠征では食事の面で大変だったでしょう。
石川さん 海外遠征の際は、必ずお米と炊飯器を持っていきました。2019年のITTFワールドツアーグランドファイナルでは、全農さんがブースを出してくださって、牛丼とカレーを提供していただいたことは忘れられない思い出です。日本選手だけではなく、出場しているすべての選手に提供してくださり、海外の選手から「おいしかったよ。本当にありがとう」と声をかけられました。選手同士の距離が縮まったように思います。今でも「あの時食べたカレーは本当においしかった」といろんな選手が感動を伝えてくれるほどです。
折原会長 日本の食を通して、海外の選手との距離が縮まるというのはありがたいことです。全農として、今後も日本の食の魅力を世界に広めていきたいと思います。
石川さん 会長が特に力を入れたいと考えていらっしゃるのは、どのようなことですか。
折原会長 後継者不足の問題ですね。全国的に生産者の高齢化が進んでおりますので、生産量の減少が各地域での大きな悩みです。今後もこの傾向は続くだろうと思いますので、新しい技術を取り入れることも現場から強く求められています。生産量を拡大しつつ、安全・安心な食料を国民の皆さんに安定的に提供していくことに注力していきたいです。
石川さん 日本の食べ物は本当においしいですからね。食べるものが自分の体を作るということを、選手時代には強く意識していました。けがをせずにしっかりプレーするためには食事管理がとても重要です。選手を引退してからも、心身ともに元気で健康な状態でいるために、バランスのよい食事を続けたいと思っています。
一人は万人のため、万人は一人のために
折原会長 日本には全国各地にさまざまなブランド品目があります。私の地元の山形は、サクランボが有名ですが「やまがた紅王(べにおう)」という新品種の生産が本格的になってきましたので、地域一体となってPR活動を行っています。それから「尾花沢すいか」のブランド化にも長年携わってきました。
石川さん 「尾花沢すいか」は、1人では持てないくらいの大きさですよね!家族やチームのみんなでおいしくいただいたことがあります。実もしっかり詰まっていて、甘くておいしかったです。
折原会長 ありがとうございます。「尾花沢すいか」のブランド化は、誰か1人でできることではありませんし、一朝一夕でなしえたわけではありません。生産者によって栽培方法や選果方法がまちまちでしたが、地元のJAでは1990年に新しい選果場を導入し、ブランド化への大きな転機となりました。あれから30年以上が経ちましたが、生産者が高齢化しても生産量が減っていないことが、全国的なスイカブランドとしての評価を得ている結果だと自負しています。
石川さん 生産量を減らさないために、どのような工夫があったのですか。
折原会長 それまでのスイカの選果方法は、一つ一つたたいてみて、中の糖度や実の詰まり具合を音感で判断していました。人それぞれの感覚ですから、どうしても誤差が生じます。新しい選果場では、光センサーによって品質を一定のレベルに統一し、スイカの品質を高水準に保つことができました。機械化を進めたことで、生産者の労力も軽減されましたので、生産面積を増やすことにつながりました。何よりも、ブランド化を実現するにあたって「一人は万人のため、万人は一人のために」というポリシーを掲げて、組織として常にまとまって行動してきました。この意識を維持してきたことが、今日までの成功につながっているように思います。
石川さん 「尾花沢すいか」は、皆さんのチームワークによって作られてきたのですね。私も中学から6年間、親元を離れて寮生活を経験しました。周りはチームメイトでもありライバルでもあり、その中で人間関係を築いていくのは大切なことだなと子どもながらに思いました。高校卒業後に、プロの卓球選手として「世界一」という高い目標を掲げました。その時に、コーチやトレーナーなどのチーム全員が、私と同じ情熱をもって同じ方向を向いて頑張ってくれたことがすごくうれしかったです。会長がおっしゃったように、私も目標を達成するために、チームワークをとても大事にしてきました。
折原会長 チームづくりという面でも素晴らしいご経験をされてきたのですね。われわれも、生産者だけではなく、物流や卸の方々と連携しながら取り組んできましたので、それが良い結果に結びついているように思います。
安全・安心な食料を安定供給するために
石川さん 全農さんにとって、今年はどんな年になりそうですか。
折原会長 国内の生産振興がわれわれの大きな使命ですので、安定的に安全・安心な食料を供給することは今年も大切な使命の一つだと思っています。ここ数年間異常気象が続いていて、日本各地で農作物が甚大な被害を受けています。これが常態化するのではないかという不安を克服すべく、新しい技術や品種を取り入れる予定です。また、国消国産を意識しながらわれわれJAグループとしてなお一層取り組んでいきたいと考えています。さらに、ロシアのウクライナ侵攻が始まって以来、資材価格の高止まりは今も続いています。肥料や燃料、その他の資材も輸入に頼らざるをえない状況ですから、大変苦労しているというのが実情です。あわせて、物流の問題についても早急に取り組まなければならない状況です。
石川さん 物流の問題について詳しくお聞かせください。
折原会長 物流・運送業界では、働き方改革法により、今年4月から労働時間に上限が設定されます。既にトラックドライバーは不足している状況ですので、4月以降はさらに厳しくなり、運んでもらえる荷物の量が大幅に減少することが懸念されています。これもJAグループだけで解決できることではありませんが、全国の農畜産物を安定して消費地に運ぶために、さまざまな取り組みに着手しています。貨車やフェリーでの輸送をはじめ、各拠点に集配の施設を設けて、集中的に集配送できる取り組みや、他社との連携なども行っていきます。ところで石川さんは、昨今の物価高騰について、どのように感じていますか?
石川さん 日本の食材は、世界的に見てもクオリティーが高いと感じています。このように安全・安心なものをつくるというのはすごく手間がかかることだと思っています。もちろん、一消費者としては、安いほうがありがたいですけれど、良いもの、おいしいものをずっと作り続けていただくためには多少値段が上がることは必要なことではないかと感じています。
折原会長 そのようにおっしゃっていただけると非常に心強いです。われわれとしては安全・安心な食料を提供していくことに今後も手を緩めずに取り組んでいきます。
変化をおそれず、成長を遂げる1年に
折原会長 石川さんは、今年はどんな活動をされる予定ですか?
石川さん 現役時代にスタートした「47都道府県サンクスツアー」という卓球教室を2022年春から開催しています。この教室を通して子どもたちに卓球やスポーツの楽しさを伝えたいと思っています。
折原会長 実際に子どもたちと接してみていかがですか。
石川さん ラケットを握ったことがない子もいれば、全国大会で活躍しているような選手もいて、いろんな子どもたちが参加してくれています。ラリーができるようになったことを素直に喜んでいたり、専門的な技術についても質問してくれたり、そこで「よし、やってみよう」という前向きな表情を見ることができるのはすごくうれしいです。子どもたちには、何をするにも夢と目標を持ってもらいたいと思っています。なんでもいいので、「こうなりたい」という夢、「こうしたい」という目標を思い描けるようになってほしいです。私は卓球に出会うまでは何をやっても続かない子どもでした。卓球に出会えたことで、スポーツの楽しさを知りましたし、夢や目標を持つことができるようになったんです。「サンクスツアー」を通して、子どもたちが夢や目標を持つきっかけになればいいなと思っています。
折原会長 人生もそうですね。自分の夢や目標に向かってどう進むのか、それはいろんな努力の積み重ねだと思います。私もかつてはスキーをやっていました。私が学生の頃は、冬季は小学校の授業でもスキーをやっていたんです。やがて大会に出るようになり、さらにステップアップして県大会、インターハイ、国体と、新しい目標が見えてくるにつれ、それが励みになり、より一層一生懸命に取り組むようになりました。
石川さん 折原会長もスポーツを通して、いろいろなご経験を重ねてこられたのですね。私は自分の意志をしっかり相手に伝えるためには、あいさつやコミュニケーションが大事だとスポーツを通じて学びました。スポーツを続けていくことは楽しいことばかりではありません。我慢しなければいけない時、グッと集中しなければいけない時が必ずあります。そのような時にメンタルを強く保つ方法についても、子どもたちに伝えていけたらと思っています。
折原会長 全国的にも、今年は物流の大きな問題や環境問題など、頭を抱える面もありますが、暗い話題ばかりではないでしょう。スポーツでは夏にパリオリンピックがありますね。日本の選手が活躍することで、日本全体の活気につながると思っています。石川さんにも明るい話題を提供していただけるように、全農オフィシャルアンバサダーとして、今年もご活躍を期待しております。
石川さん こちらこそ、引き続きよろしくお願いいたします。今年は自分にとって新しいスタートの一年になると思っています。変化をおそれずに、どんどんいろんなことにチャレンジして成長していきたいです。
折原会長 われわれも石川さんのように、いろいろなことに挑戦していきたいです。まずは、消費者の皆さんに全農の安全・安心な食料提供への取り組みについて、さらに理解していただけるように力を注いでいきたいと思います。石川さんにはこれまでと同様に協力していただけるとありがたいです。
石川さん 生産者の皆さんが愛情をこめてつくってくださっている日本全国のおいしいものを全農オフィシャルアンバサダーとして、これからもたくさんの方に伝えていきたいです。
いしかわ・かすみ 1993年山口県生まれ。卓球選手だった両親の影響で卓球を始め、ジュニア時代から輝かしい成績を残す。2011年に17歳にして全日本卓球選手権大会で優勝する快挙を成し遂げ、12年ロンドンオリンピックでは、男女を通じて史上初のシングルス4強入り。団体でも史上初の銀メダルに輝いた。16年のリオデジャネイロオリンピックでも、団体で銅メダルを獲得。21年の東京オリンピックでは、卓球女子日本代表のキャプテンとして3大会連続のメダルとなる団体銀メダルを獲得した。23年5月に現役選手引退を表明。10月に全農オフィシャルアンバサダーに就任した。