インタビューシリーズ“発信”する農業者 第3回 土田龍之介さん ((有)安井ファーム広報担当 石川県白山市 水稲・野菜農家)
農家の当たり前は消費者の当たり前ではない 求められている情報が何なのかヒントは意外と身近にある
インタビュー企画「“発信”する農業者」の第3回は、インタビュアーのファームサイド株式会社の佐川友彦さんが、日本一バズる農家として7万人以上のフォロワーを抱える石川県の(有)安井ファームの「中の人」、土田龍之介さんにお話を伺います。
病でできなくなった農作業 会社のために見つけた「できること」は広報業務
佐川友彦さん 早速ですが普段、広報担当者としてどのような業務をされているのでしょうか?
土田龍之介さん 広報担当者といっても実は肩書としては「選果営業部 広報課」という位置付けで1日の大半は農産物の選別・出荷作業を行っているんです。今はその中のスキマ時間を見つけて広報担当としてSNSで情報発信を行っています。
佐川さん 選別・出荷作業で体を使って、広報業務では頭を使うとなるとかなり疲れませんか?
土田さん 選別・出荷作業中も投稿のネタを見つけられたりするので、意外と両立しながらできています。他にもテレビや映画、ネット上の質問共有サイトにもネタが転がっていたりします。
佐川さん 普段の生活や現場での業務を広報活動にもうまく生かされているんですね。元々、情報発信に関心を持ってらっしゃったんですか?
土田さん そうですね。安井ファームに就職する前から情報発信は農業に必要不可欠であると考えていて、将来的に自分自身も“発信”できる農業者になりたいと思っていました。就職後、がんを患い農作業ができなくなった時に、「自分が会社のためにできること」を探した際の答えが私の場合は“情報発信”で、それが広報担当者になったきっかけですね。
佐川さん 元々目指されていた道とは少し違ったかもしれませんが、土田さんにしかできない“発信”が今の人気を確立しているんですね。ちなみに社長は土田さんが行われている“発信”についてどんな考えをお持ちですか?
土田さん いい距離感で見守ってくれていますね。それもSNSを始める前に社長とSNSに関するガイドラインを定めておいたことが良かったなと。
佐川さん ガイドラインの中身はどんなものだったんですか?
土田さん 「政治」「宗教」「差別」「スポーツ」「セクシャル」(いわゆる5S)については投稿しない、フォローは原則公式アカウントに限る、転載は行わないなど基本的なことですが、双方で確認作業を行ったことがその後のスムーズな運営につながったと感じています。
人気爆発のきっかけは読者が求める「農家の当たり前」の徹底研究
佐川さん 広報活動をされている中で壁にぶつかった経験はありますか?
土田さん ちょうどSNSを運用し始めてから1年経った頃に、投稿するネタが全く見つからないスランプに陥りまして…その頃、市場を定年退職された方が職場に来られて、スランプについて相談すると「農家の当たり前は、消費者の当たり前じゃない。それを発信すればいいんじゃない?」という言葉をもらい、それが日々の選別・出荷作業中に自分の「当たり前」をもう一度考え直すきっかけになりました。さらに図書館にこもって新聞を読みあさり、農業や農家はどのように切り取られて、世間からはどんな情報が必要とされているのかを自分なりに洗い出し投稿に生かすと、どんどん反応が増えていきました。
佐川さん 受け取る側を知るというのは“発信“する上で欠かせない視点ですね。「農家の当たり前」については、多くの農業者の方が既に“発信“していたり、今後“発信“したいと考えていると思いますが、土田さんが「当たり前」を多くの消費者に効果的に伝えるために工夫していることって何かありますか?
土田さん そうですね。投稿は努めてポジティブにすることと、内容も例えばブロッコリーの価格が暴落した際に「買ってください」などと押し付けるのではなく「現在ブロッコリーチャンスタイムです!」とあくまで提案にとどめるというのは常に意識してますかね。
佐川さん すてきです!きっとその爽やかさが多くのフォロワーをひきつけているんですね。
若い世代が新しい感性や手法で情報発信していくことを後押ししたい
佐川さん 土田さんの今後の目標を教えてください!
土田さん 農家の情報発信は非常に重要でこれからも続けていくべきものだと考えていますが、それと同時に“発信“の方法は今も多様化し続けていて、これからの時代をつくるのは私たちではなく、今の若い世代だという思いも強く持っています。だからこそ、今自分にできることは、自分自身の経験を広く伝え、農業者の意識を変える“発信“を行うことで若い世代が自由に新しいことに挑戦できる環境をつくることかなと思っていますね。
佐川さん 土田さんのご経験や知見を広めていくことが多くの“発信“したくてもできない方の刺激でありヒントになるのではないかと思います。土田さんにしか話せないお話を本日はたくさんお伺いできました。ありがとうございました。