農業×観光=関係人口創出 山形県・JTBと連携
農作業に付加価値をプラス 新たな試みが始動
山形県本部と山形県、(株)JTBの三者は2023年3月、連携協定を締結しました。県本部とJTBが21年から取り組んできた農作業受委託事業をベースに、三者の相互連携によって農繁期の労働力確保や農業を起点とした関係人口創出を推進するものです。都道府県も加わる連携協定は全国初で、農作業受委託の目標参加人数は、26年に延べ1万人を掲げています。
三者連携により展開する「元気な農業人材確保プロジェクト」の一環として、5月下旬から7月上旬のサクランボの最盛期に人手不足に悩む産地の労働力確保に取り組みました。
昨年度の取り組みとの大きな違いは、参加者への旅費の助成がない中で県外から多様な参加者の呼び込みを行う点にあり、参加者が山形ならではの体験で付加価値を得られる企画を新たに設定しています。
体験やボランティアではなく、対価を得て本気の農作業を体感できる「アグリツアー」と、農作業従事を社員教育に取り入れ企業経営課題の解決に貢献する「アグリワーケーション」という二つのプランで募集を行い、参加者限定の農村交流イベントや異業種交流会が開催されるなど、産地だけでなく、参加者にとっても特別なメリットのある施策を実施しました。
6月22日は、天童市にある(株)たきぐちファームで「アグリツアー」の参加者1人と「アグリワーケーション」として県外企業4社から各1人ずつ、計5人がサクランボの収穫や選果作業を行いました。
たきぐちファームの滝口征司代表取締役は「熟すのが早いサクランボは、収穫期の人手確保が非常に重要。産地はとても助けられているし、参加者にとっても良い経験になるなら、一石二鳥。ぜひ、取り組みを一層拡大させてほしい」と期待を寄せます。
観光旅行を兼ねて東京から参加した麻生芳彦さんは丁寧にサクランボを摘みながら「観光はのびのびと山形の自然を感じ、農作業は真剣にやりがいを持って働く。このメリハリは初めての経験」と話します。
また、デロイトトーマツコンサルティング合同会社の村本元気さんは「全く違うジャンルの企業の方でも、年齢や性別が異なっていても、一緒に汗を流しているうちに、自然と交流が深まっている。かしこまらずに話せることで、ふとした会話から新たな視点や学びが得られ、ビジネスチャンスのきっかけになる」と話します。休憩時間には、JR東日本や(株)NKBの参加者と談笑する場面もありました。
【アグリツアー】美しい自然の中で 地元の方との交流も楽しめる 農村交流イベント
「アグリツアー」の参加者限定で開かれた農村交流イベントでは、広島県や奈良県、大阪府、東京都など県外在住者8人が参加。尾花沢市細野集落にある「清流と山菜の里 ほその村」にあるワラビ園で収穫体験を楽しんだ後、同集落の農家レストラン「蔵」で、フキやイワナなど地元産の食材がふんだんに使われた昼食を食べながら、地元住民との交流を楽しみました。
参加者は、6月11~24日の数日間、東根市と天童市、寒河江市のサクランボ園地で、収穫や選果作業に従事。こうした農作業従事で対価を得られる旅行商品に、農村交流イベントが付随する企画は全国でも例がありません。
大阪府から参加した西村由紀子さんは「地元の方との交流は心が温かくなる。山形の自然も人も大好きになった。農作業では、もてなしてくれた場所への恩返しとして役に立つことができ、普段の旅行の何倍も学びと楽しさがあった」と話しました。
【アグリワーケーション】農作業を通じて生まれる絆とビジネスチャンス「農を起点とした異業種交流会」
「アグリワーケーション」に付随して開催された「農を起点とした異業種交流会」は、農業を契機に新たなビジネスチャンスへの発展や産業活性化を目指して企画されました。県外企業と県内企業それぞれ5社の代表者や同プロジェクトの関係者ら約40人が参加。各社は農業や食に関連する取り組み事例の発表を行いました。
昼食を挟んで行われた交流会では、名刺交換や事例発表に対しての質疑応答の他、県産農産物の魅力や「サクランボ収穫作業あるある」など、一般的な異業種交流会では上がらない話題で盛り上がりを見せました。(株)NTTドコモの大関優さんは「園地で一緒に汗を流した仲間なので、まるで友人のように気兼ねなく仕事の話ができる」と話していました。
こちらも「アグリツアー」同様に、参加者は6月10~24日の間、サクランボ園地で収穫や選果作業に従事。「アグリツアー」との違いは、農作業の対価は個人ではなく、各会社・団体に支払われる点です。こうした農作業受委託事業による社員研修プログラムに、異業種交流会が付随する企画も、全国で初めて行われました。
10月以降には「ラ・フランス」の収穫・出荷作業でも、同様の取り組みを予定しています。山形県本部と山形県、JTBでは、今回の成果や課題を検証するため、参加者・生産者向けアンケートを分析するなどして、さらなる取り組みの進化・深化を進めていきます。