トップランナーインタビュー ファームサイド(株) 代表取締役 佐川友彦氏
生産者と共に経営改善に取り組む“農家の右腕”
2014年に栃木県宇都宮市にある阿部梨園に参画し、阿部代表の右腕として経営改善に取り組んだ佐川友彦氏。そのときの改善事例をウェブサイト「阿部梨園の知恵袋」や、自身の著書で多くの人に伝えています。全国各地で講演やセミナーでも活躍されている佐川氏に、お話を聞きました。
――2020年9月に上梓(じょうし)された「東大卒、農家の右腕になる。~小さな経営改善ノウハウ100~」の反響はいかがでしたか。
全国の生産者さんを中心に好意的に受け入れていただきました。著書のおかげで私が農業界にどのように貢献したいと思っているか、理解してもらえるようになったので、より本質的な生産者さんの課題解決に協力できるようになったのが、とても大きかったです。
――生産者さん以外からの反応は?
農協や自治体の農業系の職員さんには、目に見える課題に対応するだけでなく、見えていない課題に対しての解決策を提案するのも自分の仕事だと捉えた人も。不定形の課題をどうやって見つけ、解決可能な形にして、実際に介入しサポートしていくかというのは、学校で教わるものでもないですし、現場のリアル感や生産者さんの心情をくみ取った上での総合判断になります。この本を読んで、今まで生産技術のみを指導していた人が農業経営も学び、自ら踏み込んで課題解決に協力したり、本質的なニーズを掘り当てられるようになったという話も聞きます。あとは農業界に限らず、次世代経営者や後継ぎ候補の方が、事業承継の取り組みの一つとして読まれていたりしているようです。
――講演活動ではどのようなテーマ設定が多いですか?
一番多いのは、阿部梨園での事例と経営改善の進め方ですが、最近では農園の中の組織づくりやマネジメントなど多岐にわたりますね。こちらから提案していきたいテーマとしては、「課題解決」や「仮説検証」などもあります。一般的なフレームワーク(課題解決の方法論)を農業経営や生産者さんの感覚に落とし込んだ課題解決ノウハウをこれから体系化していきたいと思います。
――阿部梨園に参画して8年。最初に異業種から入ってきた頃と今とでは、感じている課題感は変わってきていますか?
8年前、私を受け入れてくれた代表の阿部はすでに経営に対する課題意識と解決への意欲がある状態でしたが、今、課題を抱える生産者さんはまだその心理状況ではない人の方が多いと思います。知識を伝えるだけでなく、経営に向き合う「気持ちのスイッチを押す」こともセットで取り組んでいかないと、課題解決は進まないということは梨園以外の多くのケースに触れながら強く感じています。
――農協職員や行政の指導員らが生産者のスイッチを入れる手法はあるのでしょうか?
誰かの力になろうと思ったらその人の未来や将来を本人より真剣に考えるということが、一番心を開くアプローチだなと感じています。もちろん指導員自らのスイッチが入っているというのが必須条件です。
――「農業界に農家の右腕を増やす」という目標を持たれていますが?
昨年、全農のTACパワーアップ大会に講師として呼んでもらい、立場は違いますがTACの皆さんはまさしく右腕仲間で、その道の大先輩だと感じました。
右腕に大切なのは、プロとして本気で支援することはもちろん、相手の立場に立って想像力を働かせた提案をすることだと思います。そして課題解決のために答えが出るまで考え抜く思考力、手持ちの解決手法だけではなくあらゆるものを総動員する創造力も役に立ちます。
JAさんは私のような個人と違い、組織力があります。部会やグループ単位でも課題解決を進めていけば、一対一の支援では実現できないような相乗効果や共通認識が生まれ、組織や集団としてレベルアップできます。JAだからこその事例を一緒につくっていけたらと個人的に期待しています。
――TACをはじめて15年経ちました。今後ファームサイド社とTACが連携していくことも多いかと思います。
TACでいろいろなデータベースや課題解決のノウハウなど、蓄積が山のようにあると聞いています。それをいかに有効活用していくか。TAC版課題解決フレームワークを、TACと生産者と弊社で一緒になって作るのも一つだと思います。ノウハウや情報など共通化できるものは共通化し、とことん効率をあげていく。生まれた余裕で個別支援を厚くするのが理想です。そのお手伝いができればうれしいですね。
TACができたときと今とで、担い手の姿も違うでしょうし、JAの置かれた状況や社会環境も変わってきていると思います。積み重ねてきた経験や知識をまとめ、さらにいい形にしていく―全国であれ地区単位であれ、TACのリブランディングの必要があるのであれば、これまでの知見を総動員してお力になります。
ファームサイド(株)のサイトはこちら
https://farmside.co.jp/
全農ウィークリー2020年9月21日号のインタビューはこちら
https://www.zennoh-weekly.jp/wp/article/9993